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 高い効果をもつ画期的な薬が、次々に登場している。患者家族にとっては治療の可能性を広げる「希望の光」だが、新たな技術を使っていることもあって高額化が進む。患者1人あたり1カ月の医療費が1千万円以上となる件数は、10年間で7倍に増えた。「高額療養費」の負担引き上げが議論されるなど、医療財政の圧迫という新たな課題に直面している。

 日本で長年、死因の1位となっているがんの治療では、薬の進歩が著しい。2000年前後にがん細胞を「狙い撃ち」する「分子標的薬」が登場。このころから、薬の高額化が始まったと言われる。

 大きな話題になったのは、14年に発売された、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」。1人あたり年間約3500万円という価格が注目された。19年には、1回の投薬で済むが、1人あたり3千万円以上という遺伝子治療薬「キムリア」も発売になった。

 がん以外の薬も高額化が進む。20年には2歳未満の子どもの脊髄(せきずい)性筋萎縮症に対する「ゾルゲンスマ」(1人約1億7千万円)、23年には目の病気「遺伝性網膜ジストロフィー」に対する「ルクスターナ」(両目で1人約1億円)が発売された。いずれも遺伝子を使った「遺伝子治療薬」で、1回の投薬で効果が期待できる。

 健康保険組合連合会が、全国の健保組合の診療報酬明細書(レセプト)を分析した結果によると、患者1人あたりの1カ月の医療費が1千万円以上の件数は、23年度(同年1月~24年1月)に2156件で過去最多を更新。10年間で7倍に増えている。1千万円以上のレセプトは計344億円で、9年前の14年度と比べて約300億円増えた。

 高度な医療を行う大学病院では、過去7年の間に、医薬品のコストが約1・5倍にふくれあがっているという報告もある。

長く使う薬・身近な病気の薬も高額化

 こうした費用を押し上げるのは、価格が著しく高い薬だけではない。ある程度高額で1回あたりの投与量が多く、継続的な使用が必要になる薬の存在も大きい。23年度のレセプトの総額が最も高かった薬は、血友病治療薬「ヘムライブラ」。1974件使われ、合計額は113億円を超えた。

 近年登場する薬が高いのは、「バイオ医薬品」と呼ばれる新たな技術を使ったタイプのためだ。遺伝子組み換えや細胞培養などの技術を使ってつくられた、たんぱく質を主成分としている。従来の薬に比べ、製造や品質管理のために大規模な設備が必要とされ、コストにも影響している。

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さまざまな錠剤。こうした従来の薬は大量生産が可能だが……。

 一方、高齢化で医療費の増加が課題となるなか、政府は近年、薬価を抑えることで、医療費全体の伸びを抑えてきた。対象とする患者の範囲が広がった薬は、段階的に薬価を下げるなどしている。医療費は右肩上がりに伸びているのに対し、薬剤費が占める割合は2割ほどと一定に抑えられている。

 だが、こうした対応は、製薬企業の開発意欲をそぎ、市場としての日本の魅力の乏しさから、欧米で使われる薬が日本では使えない「ドラッグロス」につながる、と指摘されている。

今後も進む高額化、どう向き合う 「見直すべき」ポイントは

 薬の高額化の流れは、今後も…

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