【ニュートンから】時間心理学(3)
景色がスローモーションにみえる現象は,交通事故のような危険な場面以外でもおきる。野球選手がボールを打ったときのことを「ボールが止まってみえた」と振り返ったり,ボクシング選手が「相手のこぶしがゆっくりと動いていた」と語ったりすることがある。いわゆる「ゾーンに入る」という現象だ。心理学の分野では「フロー」とよばれ,極度に集中しているときに体験する特殊な精神状態だといわれている。フローにも感情の興奮がかかわっている可能性があり,千葉大学で心理学を専門に研究する一川誠教授は研究を進めている。
なお,フローという用語の範囲には,スローモーションにみえるだけでなく,長い時間が一瞬ですぎたと感じる状態も含まれる。「フローには,景色がスローモーションのようにみえる『拡張』と,時間が一瞬ですぎたように感じる『圧縮』の2種類があることが報告されています。どちらの場合も集中力が大きくかかわります。課題の難易度と個人の能力の関係性によって,拡張と圧縮のどちらかがおきるのではないかと私は考えています」(一川教授)。
時計を見るほど 時間の流れは遅くなる
同じ1時間でも,友達と食事をしているときや仕事に集中しているときは短く感じ,退屈な会議や授業は長く感じてしまう。これには,時間経過に注意が向く回数が影響しているといわれている。楽しいときや集中しているときは時間の経過を気にしないのに対して,退屈なときはつい時計を見てしまい,「思っていたよりも時間がたっていない」と考えることで時間の流れを遅く感じてしまう。
なぜ,時間経過に注意を向けることが,心理的時間の流れの速さに関係するのだろうか。いくつかの説が考えられているが,ここでは時間心理学で長らく支持されている「スカラー期待値理論」を紹介する。
スカラー期待値理論では,パ…