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東短リサーチの加藤出・チーフエコノミスト=2024年5月10日、東京都中央区

 日本銀行が今春、マイナス金利政策をやめて17年ぶりの利上げに踏み切り、日本は「金利のある世界」にかじを切りました。ただ、日銀ウォッチャーとして知られる東短リサーチ社長・チーフエコノミストの加藤出さんは、これから日銀が歩む道のりは「険しい」と語ります。異次元の政策から抜け出した中央銀行に、何が問われているのでしょうか。

かとう・いずる 1965年生まれ。東短リサーチ社長、チーフエコノミスト。97年に同社に入り13年から社長。「日銀ウォッチャー」として知られる。

 日本では1990年代後半から四半世紀、金利をほぼゼロにする金融緩和策がとられてきました。欧米もリーマン・ショックや新型コロナで緩和しましたが、すでに金利を上げています。今年3月にマイナス金利を解除するまで金利を上げず、ここまで長期にわたり緩和を続けてきたのは、日本だけです。

 背景には日本経済の構造問題があります。高齢化や人口減で需要が弱まり、かつての家電や半導体メーカーのような国際競争力のある企業も減った。90年代後半の金融危機の後遺症で、企業や労働者が賃上げより雇用維持を優先したことも、マインドに利いたでしょう。

 経済が低迷するなか、13年4月に日本銀行の黒田東彦総裁(当時)が始めたのが、異次元金融緩和でした。日銀の資金供給量(マネタリーベース)は、国内総生産(GDP)に対し、今や110%を超えました。このような中央銀行は世界に例はなく、米国で20%程度です。

 低金利による円安で輸出企業の収益は改善しましたが、家計部門は犠牲を強いられてきました。輸入価格と生活コストが上がり、消費は低迷しています。「物価の番人」としての日銀に対する国民の信頼は揺らぎつつあるのではないでしょうか。

 植田和男・現総裁は、異次元…

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