その動画は、中国の人びとに大きなショックを与えた。
中国東部・江蘇省徐州市の農村にある粗末な小屋。真冬の寒々しく汚い場所に閉じ込められた女性が映っていた。首を鎖につながれている。歯はほとんど抜け落ち、話しかけられた相手とうまく意思疎通ができないようにも見える――。2022年1月、動画は急速に拡散した。
女性は繰り返し人身売買の被害に遭っていた。買い手の一人でこの女性の「夫」となった男が虐待と監禁の罪に問われた裁判の事実認定によると、女性は1998年に雲南省で誘拐され、少なくとも3回、人身売買の被害を受けた。この男の家に5千元(現在のレートで約10万3千円)で売り渡された後、99年に長男を出産。さらに2011~20年に7人の子どもを産み、この間に精神障害が悪化した。「夫」は17年から女性を鎖や縄で縛りつけ、食べ物を与えないこともあった。
【連載】新語・流行語から探る中国
受験や結婚といった人生の転機や、経済やライフスタイルの変化を、中国の人びとはワンフレーズの漢字で巧みに表現しています。そんな新語・流行語が映し出す、中国社会のいまを読み解きます。
- 子どもら狙う「人販子」の魔の手 社会のひずみ、昨夏2505人救出
中国で社会問題であり続けている誘拐と人身売買で狙われてきたのは、子どもだけではない。女性の被害も深刻だった。「一人っ子政策」の影響で男性の比率が高くなった農村部などで、手段を選ばずに結婚相手を連れてくるというケースも珍しくなかった。
鎖でつながれていた女性は「鉄鏈女(鉄鎖の女性)」と呼ばれるようになった。中国で女性がどのように扱われ、どんな存在であったのかに、改めて注目が集まった。
「刑法に問題がある」との指摘も
たとえば刑法240条は、誘…