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楽天証券経済研究所チーフエコノミストの愛宕伸康氏=2024年4月4日午後4時22分、東京都港区南青山
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 私たちの生活に大きな影響を与える物価や金利。「物価の番人」と呼ばれる日本銀行の金融政策がその動向を左右する。日銀が3月19日に決めた「マイナス金利解除」は、今後の物価や金利にどのような影響を与えるのか。くらしはどう変化するのか。日銀審議委員スタッフや物価統計課長などを務めた、楽天証券経済研究所チーフエコノミストの愛宕伸康氏に、今後の見通しを聞いた。(聞き手・橋本幸雄)

マイナス金利解除、なぜ今?

 ――日本銀行が3月に「マイナス金利政策」を解除しました。日銀の物価目標は「2%」ですが、物価上昇率はすでに2%超が続いていました。なぜ今、このタイミングでの解除になったのでしょうか。

 「物価は日本だけでなく米国や欧州でも上昇しています。物価上昇を抑えるため、米連邦準備制度理事会(FRB)は5.25~5.50%、欧州中央銀行(ECB)は4.50%にまで利上げしています。日本の利上げは遅いようにみえますが、背景には日本と海外、特に米国との状況の違いがあります」

 「米国ではコロナ対策で多額の給付金が早いタイミングで出され、それが景気を回復させるという期待感から株価が上がりました。米国では多くの国民が株式を保有し、株価上昇は資産増と消費拡大、物価上昇につながります。FRBは景気過熱と物価上昇を抑えるため2022年3月に約3年ぶりの利上げを行いましたが、それでも物価上昇は収まりませんでした」

 「米国の住宅ローンの状況も、景気過熱が続いた理由として挙げられます。変動金利が大半の日本とは逆に、米国では9割が固定金利を選んでいます。FRBが利上げしても、すでに低金利でローンを組んでいる人には影響せず、消費を抑える効果はなかったのです」

 「一方、日本はどうでしょうか。物価上昇率は22年以降、2%を超えていたとはいえ、エネルギー価格上昇の影響が大きく、日銀は物価上昇の持続性はないとみていました。利上げに動かず、粘り強く緩和を続けているうちに、物価上昇の影響が国民に広がり、不満も目立ってきた。そこで政府が財界に強く働きかけ、今春闘でベア3%台というバブル期以来の高水準がみえてきた。このタイミングを日銀はとらえ、マイナス金利の解除に踏み切ったわけです」

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 ――政府主導ともいえる賃上げが長続きするのでしょうか。

 「そこが大きなポイントです。現在の賃上げの動きは人手不足の要因もありますが、物価上昇対策の側面が大きい。従業員が物価上昇で苦しんでいることに対応して賃金を上げる、という動きです。ですから、物価上昇が落ち着けば賃上げの動きも弱まる可能性がある。来年の春闘でも高水準の賃上げが続くのかどうかはまだ見通せません」

 「日本は高齢社会で年金生活者も多く、企業は値上げによる売り上げ減を恐れ、生活必需品の大幅な値上げには踏み切れない。どんどん物価が上がる米国とはそこが大きく異なります。もちろん円安やエネルギー価格の上昇の影響はありますが、今のような大幅な値上げを続けるのは難しい。従って、賃上げも緩やかなペースになってしまう可能性があります」

追加利上げのタイミングは

 ――となると、日銀は追加利上げをなかなか行えないのでは。

 「私は年内の利上げはあるか…

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