メディア空間考 浜田陽太郎
映画「関心領域」を見た。第2次大戦下のアウシュビッツを舞台に、強制収容所と壁ひとつ隔てた小ぎれいな邸宅で「幸せ」に暮らすドイツ人の司令官一家を描き、米アカデミー賞国際長編映画賞を受けた作品である。
一家は、壁の向こうで起きていることに無関心だ。あるいは、それを装っている。
あまりに事の深刻さが違うとお叱りを受けそうだが、私が連想したのは、自分がいま取材している年金制度のことだった。
今年は5年に1度の「年金イヤー」だ。ある一定の前提に基づいて100年先までの財政が検証され、制度の改善策が検討される。検証結果が発表される夏以降は、年金に関する報道が一気に増える。
そこで、われわれ担当記者を悩ませるのが「マクロ経済スライド」という言葉だ。
読者が逃げていくのではないか
今の年金制度は、保険料の上限を固定し、その収入の範囲内で給付をやりくりする。人口減少や長寿化に応じて年金給付を抑える仕組みが「マクロ経済スライド」で、制度を支える背骨の役割を果たす。
だが、なんというか、そのあまりに「専門的」な響きと非日常的な語感ゆえ、自分が書く記事にこの単語を使うと、潮が引くように読者が逃げていくのではないか。そんな無力感にさいなまれるのだ。
今の制度ができた2004年…