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「世界の果てからこんにちはⅠ」(演出・鈴木忠志)=SCOT提供
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 利賀(とが)から世界へ――。演出家・鈴木忠志さん(86)主宰の劇団SCOT(Suzuki Company of Toga)が、山深い富山県南砺(なんと)市の利賀村に拠点を移し、半世紀の節目を迎える。独自の時代感覚や俳優訓練法で個性的な人間像を描き、国際的に高く評価されてきた鈴木さん。毎夏恒例の演劇祭「SCOTサマー・シーズン」(8月22日~9月14日)が迫る今、何を思うか。劇団の長い歩みに近代、戦後の日本の歩みを重ね合わせつつ振り返った。

雪国の生活文化にほれこみ富山・利賀村へ

 「大した国じゃなかったけれど、静かにニッポンを愛した」

 7月下旬、「世界の果てからこんにちはⅡ」(2020年初演)のけいこを利賀村で見た。シンガー・ソングライター杉本眞人(すぎもとまさと)さんの曲「別れの日に」の歌詞をアレンジしたせりふから、鈴木さんの近年の心境が伝わる。

 「50年間、途中で下山せずに『過疎地の用心棒』『在日利賀村民』としてこの地を守りたい、日本という国を何とかしたい、と思うくらいには愛してきました」

 気がかりは過疎地の山村の行く末だ。

 「冬は積雪3~4メートル。富山駅から山道を車で1時間半、地元の人もめったに訪れない。村の人口約1400人はこの50年で約400人に。東京はこの間、250万人近く増えました。これは現在の富山、石川、福井3県の人口の合計に匹敵します。国土のバランスはあまりにも常軌を逸しています」

 雪が珍しい現・静岡市清水区出身。1966年に東京で劇団「早稲田小劇場」を旗揚げ。新しい演劇の最前線で活躍する中で、雪国の生活文化にほれ込み、76年に利賀村へと移住。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された五箇山の集落にも近い、この地の自然や合掌造りの家屋を作品づくりに生かした。

 「村長はじめ村の人の信頼を得るために16回も通い詰めました。何が目的か。本物か偽物か。厳しい目で見極められた。今も年末年始は必ず村で過ごします」

■批判的精神で社会矛盾と向き…

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