寺院に寄せられた仏さまへのお供えを、家計が苦しいひとり親家庭などにおすそわけする。認定NPO法人「おてらおやつクラブ」(奈良県)は、10年以上そんな取り組みを続けてきた。段ボール箱にお菓子や食料、日用品を詰めて、支援先に送る。箱の中には毎回、支援者が工夫したメッセージも添えている。
横浜市南区の「大光院」では、住職の妻が中心になって活動し、毎回、直筆のメッセージを書く。
ある時は、こんな内容だった。
《世の中、大変なこと、沢山(たくさん)、ありますね。でも、自分を見失わず、あなたらしく、頑張っていれば、必ず誰かが見てくれています。気にかけている人たちがいることを忘れないで下さい》
ひとり親世帯、家庭内暴力からの避難……。生活に困っている人は、たくさんいる。孤独を感じているかもしれない。そう考えた。
すると、支援の品を受け取った相手から、おてらおやつクラブの事務局に返事が来た。
《『気にかけている人がいることを忘れないで下さい』というひと言を読んだとき、涙が止まりませんでした。(中略)もう少し頑張ろうという気持ちになりました》
こんなメッセージを書いたこともある。
《いつも頑張っていますね。でも、少し休んでいいんですよ。そういう時間も大切です》
このメッセージにも返事が届いた。
《頑張ってるって言ってもらい、涙が出そうでした。休んでいいんだって心が救われた気分でした。(中略)つらくなった時いつでも読めるように身につけていようと思います》
匿名でのやり取りだからこそできる、想(おも)いの交換なのかもしれない。
住職の妻は言う。
「わたしは陰から支えたい。『あしながおじさん』や『ガラスの仮面』の『紫のバラの人』のように」
名古屋市昭和区にある「教西(きょうさい)寺」も2016年から活動に参加している。住職の三宅教道さん、妻の千空さんと数人のボランティアが毎月、段ボール箱に詰めている。
教西寺でも、メッセージカードに力を入れる。赤、ピンク、青……とカラフルで、折り紙を切り貼りするなど、デザインにも凝る。
「どこに行っても、『この紙、いい』『そのシール使えるかも』と考えている」と、ボランティアの鵜飼恵子さんは話す。
段ボール箱の中に隙間ができないように工夫して詰め込む。
「ゲームのテトリスをしている気分でこだわっています」とやはりボランティアの今岡仁実さんは言う。わずかな隙間にアメなどを入れるのは、今岡さんの息子で中学生の稔裕さんの役目だ。
箱を開けたときにわぁ!と笑顔になってほしい。そう願いながら、みんなで想いを詰めていく。