記者コラム 「多事奏論」 編集委員・岡崎明子
数日前まで、中学受験生の親だった。
中学受験は「算数で合否が決まる」と言われる。解法の暗記では太刀打ちできず、習得に時間がかかる上、1問あたりの配点が大きいため点差が開きやすいなど、さまざまな理由を耳にした。
「つるかめ算」「ニュートン算」といった特殊な解法を始め、親が教えられるレベルはとうに超え、我が家も最後まで苦しんだ。だがそれ以上に悩まされたのは、無意識に植えつけられかねないジェンダーバイアスだった。
「××女子中の算数は男子校なみに難しい」「女子は立体図形が苦手だから」など、「呪い」としか思えない言葉が講師の口から出るたびに、「娘の前ではご勘弁を!」と心の中で叫んでいた。
算数の能力に男女差がないことは、さまざまなデータが示している。一方で模試の結果をみると、男子の方が平均点が高く、その差は学年が上がるにつれ開いていった。呪いの言葉の刻印はかくも深いのか。ずっとモヤモヤしていた。
金沢大教授で学校教育を専門とする米田力生さんが、教員志望の男子学生と女子学生とでは数学の教え方に違いがあると気づいたのは、数年前のことだった。
「模擬授業をやらせてみると、男子学生の多くはいきなり定理など抽象概念から入ります。一方で女子学生は、ほとんどが身近な具体例を用いながらストーリーとして説明します。どうすれば生徒たちがその分野に興味や関心を持つか、その導入方法がまったく違うのです」
米田さん自身、最初は「そこまで具体例に落とし込まなくても」と女子学生の教え方に違和感を覚えたそうだ。しかし次第に「彼女たちは、本当はこういう授業を受けたかったのだ」と気づいた。
数学教師を目指すのだから、米田さんのもとに集まる女子学生は数学が得意だった人が多い。それでも話を聞いてみると、ほとんどが抽象的な内容の単元で挫折した経験を持っていた。その定理や数式が実際に何に使われているのかを独自に調べ、何とか関心を持とうと努力をした子も少なくないという。
「今の学校の授業で要求され…