「103万円の壁」という言葉が10月の衆院選を機に話題になっている。所得税支払いの義務が生じる最低年収のことで、国民民主党が減税策としてこの金額の引き上げを打ち出した。賛否が交錯する中、「年収の壁」の現場にいる人たちはどう見るか。
大阪市都島区の大学生の男性(19)は、祖母が経営する調剤薬局でアルバイトをしている。この薬局を継ぎたいと考えており、アルバイトはその「勉強」が目的だ。お金に困っているわけではないが、「103万円の壁」には頭を悩ませる。
年収103万円を超えると自身を扶養する母親の扶養控除が適用されなくなり、納める税金が増える計算になる。母親からは「壁」を意識するように言われ、男性も「家族に負担がかかるのは嫌だ」と思う。
時給は1300円だ。寒い年末年始は繁忙期で、今年の初めは多い月で20万円ほどの収入があった。早々に年間収入が103万円を超えてしまう。
あと2カ月で残り25万円
前年に扱った処方箋(せん)の実績などをもとに家族で話し合ってシフトを決め、忙しくない月は6万~7万円に抑えて年末に備える。ただ、溶連菌が流行するなど予想外に出勤を求められる月もあった。その結果、今年は2カ月を残し、「壁」まであと25万円ほど。12月に十分働けるよう、11月は抑制するという。
男性は、アルバイトですら就業調整が求められる103万円という設定は低すぎると感じている。今回の衆院選では初めて選挙権を得て、各党の政策を見比べた。「どこも賃上げを掲げるけれど、『壁』がなくならない限り、働く時間を減らすだけで収入は変わらない。物価が上がれば結局、生活は苦しくなるだけではないか」と漏らす。
「103万円」は全ての納税者が対象の「基礎控除」(48万円)と、会社員の経費という位置づけの「給与所得控除」(最低55万円)の合計額で、1995年に決まった。
衆院選で「手取りを増やす」と掲げ、103万円を178万円に引き上げると訴えた国民民主党の案に、賛否の声が上がっています。では「壁」を取り払ったらどうなるのかーー。実際に取り組んだ企業では、従業員にある変化が見られたそうです。
識者「社会保険も一体化させた議論を」
税法に詳しい三木義一・青山…