その長崎ちゃんぽんの店の壁には、「11時2分」を指したまま止まった古時計が、所狭しと並んでいる。1945年8月9日午前、長崎に原子爆弾が投下され炸裂(さくれつ)した時刻だ。
埼玉県志木市にある「長崎亭」。1976年に長崎出身の古賀宏さんが開店した。ちゃんぽんや皿うどんの麺は長崎直送。現在、主に店を切り盛りするのは、宏さんの長男で2代目店主の紳一郎さん(61)と、3代目で紳一郎さんの次男の紘次郎さん(32)だ。2人は、宏さんが考案した本場のレシピを守り続けている。
骨董(こっとう)品の収集が趣味だった宏さんは、手に入れた古時計を店に飾るようになり、少しずつ増やしていった。
多くの時計は正確に時を刻んでいたが、正時で鐘が一斉に鳴り響く。「うるさいくらいだった」と宏さんの妻秀子さん(86)は振り返る。やがて、古時計は動きを止め、調度品になった。35年ほど前、長崎出身の常連客から「止めているのなら、針を11時2分に合わせてはどうか」と言われた。
■救護活動に従事、9歳で被爆…