お気に入りの民謡クルセイダーズのレコードを手にする松本達則さん(左)と美由紀さん=2025年3月12日、広島県福山市山手町7丁目、矢代正晶撮影

 自宅にある大量のアナログレコードから、手触りでお気に入りの一枚を探し当てる。病気で視力を失ったが、妻を相棒に、DJ活動やレコード収集に情熱を燃やす。夢はあこがれのバンドとの共演だ。

 広島県福山市の松本達則さん(52)が鍼(はり)とマッサージの治療院を営む自宅の2階には、約500枚のアナログ盤がずらり。大好きなYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)をはじめ、ジャズやレゲエ、歌謡曲など幅広い。

 何度も聞き込んだレコードは「触れば分かる。ジャケットのへこみや破れ、(日本盤LPにつけられた)帯の有無などそれぞれ違いがある」という。

 中学生でYMOと出会って音楽に目覚め、レコード収集にのめり込んだ。18歳で大阪のデザイン専門学校に進学すると、仕送りを懐にレコード店を巡った。

 ただ、10代で網膜の異常で視野が狭くなる「網膜色素変性症」と診断され、徐々に視力が低下。卒業後はレコード店員を志したが諦め、資格を取って28歳で治療院を開いた。

 40代で完全に視力を失ったが、レコードへの熱意が衰えることはなかった。支えたのは妻の美由紀さん(50)だ。

 レコード店には美由紀さんが同行して、膨大な商品のタイトルを一枚一枚読み上げる。「全く詳しくなかった」という美由紀さんだが、場数を踏んだ今では「これは買っておいたほうがいいんじゃない?」とアドバイスするほどに。松本さんは「信じられないくらいありがたい、心強い相棒」と感謝する。

30年分の思い「針を落とす手震えた」

 DJは高校生の頃からの夢だった。始めるきっかけをくれたのは、いま大好きなバンド「民謡クルセイダーズ」だ。民謡と世界の音楽を融合させたサウンドで、国内外で評価が高い。

 昨年2月、大阪のライブに夫婦で出かけた。楽しむうちに、自分の選曲でオープニングを盛り上げるイメージが浮かんできて、心に火がついた。帰り道で〝相棒〟に打ち明けた。「DJをやりたい。手伝ってくれるか」「まあ、いいけど」

 地元のコミュニティーFM局に相談のメールを送ると、DJ志望者に門戸を開いている店を紹介してくれた。

 昨年6月、カフェバー「モンドカフェ福山」(福山市南本庄1丁目)で初めてDJをした。「30年分の思いで、針を落とす手が震えた」

 今もその店で月2回程度、DJ出演している。半世紀前のイタリアの映画音楽、伝説的な前衛ジャズアーティスト……。選曲にはこだわりが詰まっている。美由紀さんは隣で、持参したレコードの確認などをサポート。時には「お客さん、踊ってくれてるよ」と耳打ちしてくれる。

 松本さんの目標は「民クル」との共演だ。1月、名古屋でのライブで物販コーナーにいたメンバーに思い切って声をかけた。「一緒にDJをやってみたいんです」と自己紹介すると、「ええ、やりましょう」と励ましてくれたという。「(共演は)ないと思いますけど……。いや、でもDJの夢がかなっちゃったから、もしかして、あるかも」

 美由紀さんは「思い立ったら行動するパワーがすごいから、一緒にいて楽しい。私の世界も広がっていくのを感じる」と、夢をともに追い続ける。

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