女優・声優の大山のぶ代さんが90歳で亡くなりました。2010年3月8日~12日の朝日新聞夕刊に掲載した連載「人生の贈りもの」をアーカイブ配信します。

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【2010年3月8日夕刊】

 ――すぐ下の世代から若者まで握手を求められるそうですね

 「子どものころ見ていました」と必ずおっしゃいます。「何をご覧になったの?」とお聞きすると、50~60代の方はブタの3兄弟が登場するNHKの人形劇「ブーフーウー」やテレビアニメ「ハリスの旋風」、それより若い世代は「ドラえもん」とお答えになります。ブーフーウー世代、ドラえもん世代と、幅広い世代の方たちと共通の思い出を持っているのは、非常に幸せなことです。

 私たちが若いころは声優と呼ばれる仕事はなかったのですね。吹き替えのお仕事では俳優さんが「きょうは声だけなんだよね」とおっしゃっていた。そのうち、「声優の仕事だよ」と、本業の俳優業とは別の仕事をしていることに照れるかのような言い方をされ、徐々に使われだしたのです。私たちより若い世代から、声優になりたい人たちが出てきた。その人たちは胸を張って「声優です」と言うようになりました。

 ――今はどのような毎日を?

 専門学校で声優を目指す若者らに教えています。学校で勉強する2年間に、ちゃんとした言葉を覚えてほしい、と思っています。声優になるためには2年では足りない。それでも、ふだん使う言葉はずいぶん変わってきます。声優と異なる世界で働くことになっても「立派だよ」と言ってもらえる人になっています。使う言葉が変化すると、人格にも影響する。言葉は心のあり方をあらわすことがあると思うのです。他人への気遣いや思いやりがこもった言葉と、心を伝えていきたいと思っています。しんぼう強く若い人たちとつきあってゆきたいですね。

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 ――幻滅する言葉は?

 お店のことを「ショップ」と…

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