一力遼名人(28)=棋聖・天元・本因坊と合わせ四冠=に芝野虎丸十段(25)が挑戦している第50期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第3局は12日、三重県鳥羽市の旅館「戸田家」で2日目が打ち継がれる。
名人が開幕2連勝し、シリーズの流れを左右する大一番。名人の黒番で始まり、名人戦七番勝負1日目の最長手数を更新した前局に続くスピード進行だった。名人に錯覚があったか、相手の大石殺しに失敗。挑戦者が大きくリードを奪ったなかで、117手目を名人が封じて打ち掛けとなった。
消費時間は名人4時間22分、挑戦者3時間8分。対局は12日午前9時に再開され、夜までに終局する見込み。朝日新聞のデジタル版では、七番勝負の模様をタイムラインで徹底詳報する。
【囲碁ライブ】一力遼名人ー芝野虎丸十段【第50期囲碁名人戦第3局2日目】(終局後、ライブ録画は囲碁将棋TVのメンバー限定になります)
- 【1日目詳報】一力名人、錯覚か 大石捕獲に失敗 芝野挑戦者が大幅リード
第3局総括
勝負を分けた読み合い
過去2局と同様に、両対局者がもっとも得意とする読み合いが勝負を分けた。ここまで名人に屈してきた挑戦者が、本局では一枚上回った。
本局のポイントは、上辺の黒模様に突入した挑戦者の白石の死活に尽きる。
挑戦者が上辺白54と黒模様に打ち込むと、名人は白の一団を封じ込め、黒71、73と全滅させにいった。一団の白が丸々取られると、ここで碁は終わる。しかし白96が相手の手数を縮める攻め合いの妙手。続いて黒98と追及するのは白に黒89の一路下に打たれて逆封鎖され、隅の黒が取られる。
挑戦者の妙手を見落としていた名人は黒97と兵を引き、白98と白の生きを許した。しかし白を殺しにいった黒85、87など、白地に取り残された黒石はすべて相手に没収された。序盤早々に築いたおよそ40目の黒地は大きく荒らされ、実質ゼロ目に近いダメージを負った。事実上、勝負はここで決した。
黒93(77)
挑戦者は2日目に入って2時間23分の大長考を払うなど慎重にゴールをめざし、名人を早い投了に追い込んだ。
解説の村川大介九段は「深い読みを見せた挑戦者の好局。読み合いで間違わない棋士の筆頭格である名人の錯覚は珍しい。ショックが大きいのではないか」と話した。
持ち時間各8時間のうち、残り時間は名人2時間25分、挑戦者1時間35分。第4局は9月22、23日、神奈川県箱根町で打たれる。
15:45
芝野挑戦者、囲碁将棋TVに出演
感想戦の後、勝利を収めた芝野挑戦者が朝日新聞のYouTubeチャンネル「囲碁将棋TV」に出演。「自信を持てずに打っていたので勝てて良かったです」と語った。解説の佐田七段とともに第3局を振り返った。
15:00
幻のおやつ
午後2時36分に終局したため、3時のおやつは対局室に運ばれることはなかった。が、おやつのメニューは事前に報道陣に伝えられ、同じものが取材本部に届けられていた。
両者ともフルーツ盛り合わせを注文していた。
皿の中央に盛りつけられているのは、左からオレンジ、梨、グレープフルーツだ。カットの仕方で、ひとかたまりのフルーツに見える。そばには、モモやメロンも。
小さな器には巨峰、シャインマスカット、ブルーベリーやマンゴーが盛りつけられている。
戸田家洋食チーフの三宅正通さんによると、フルーツのサイズは「対局中に食べるものですから、一口で食べられるようにしています」。熱戦は途切れることのない、細やかな気遣いに支えられていたのだ。
14:50
挑戦者「自信持てたのは最後の方」
終局後、両対局者が取材に応じた。
今シリーズ初白星を挙げた芝野挑戦者。対局中の険しい表情は、いくぶん和らいだように見える。
「(1日目にあった右上の折衝で)得をした格好だったので、形勢は悪くないと思いましたが、はっきり自信を持てたのは2日目の最後の方でした」と振り返る。
これで1勝2敗。「状況はあまり変わらないので、次も修正して打てたらと思います」と謙虚に語った。
一力名人は感情を抑えて検討に臨んだが、時折表情に悔しさがにじんだ。
右上の白の大石の捕獲失敗について、「最後の方、手遅れというタイミングで誤算に気づきました」と語る。
「8時間の碁でこういうミスをしているようではダメかなと思います。1日目でハッキリ負けにしてしまったので、もう少しいい碁を打てるように、準備してきます」と雪辱を誓った。
14:36
名人が投了
下辺の黒の一団を切断する芝野挑戦者の白142を見て、一力名人が投了した。急転直下、午後3時のおやつ前の早い終局となった。
挑戦者が今シリーズ初勝利を挙げた。名人2勝、挑戦者1勝となった。
羽ばたく鶴
対局室は、戸田家の高層棟「嬉春亭」15階にある貴賓室「万景(ばんけい)の間」である。
YouTubeの中継画面の左側、芝野挑戦者の左奥に見える布が気になる。着物?
これは几帳(きちょう)といって、間仕切りとなる調度品だ。台に上に、2本の柱が立つ。そこに渡した横木に帷子(かたびら)を垂らしている。
帷子は、江戸時代に宮中御用達だった京都の織物師「徳扇(とくせん)」の名を継いだ、12代藤林徳扇が手がけたものだという。
描かれているのは、羽ばたく白い鶴。白番の挑戦者は、今シリーズ初勝利へと羽ばたきたいところだ。
13:13
挑戦者、決断の一手
午前中、2時間10分考慮してなお打たず、昼食休憩を迎えた挑戦者は、午後1時の対局再開後もなお打たず、13分考えて白1に手を伸ばした。
検討陣は黒2の一手に白Aと最強コースに進むと予想したが、白3が柔軟な一手。続いて黒A以下白Fと挑戦者は下辺の黒の一団を召し捕り、先手を取った名人は盤上最大の黒Gに向かうと予想される。
挑戦者は2時間23分、昼食休憩の1時間を入れれば3時間23分を費やし、このコースで白よしと見立てたか。
ユーチューブ解説の佐田篤史七段は「正しい判断のようです」。予想のコースをたどればヨセ勝負となる。挑戦者の白3を見て名人の手が止まり、逆転の方策を練っている。
■挑戦者、ついに着手[13:…