(左から)『人間一生図巻』(いがらしみきお著、双葉社刊)、『空色心経』(こうの史代著、朝日新聞出版刊)

中条省平のマンガ時評

フランス文学者で様々な評論活動にも取り組む中条省平さんが、いま注目のマンガを解説します

 今回は2冊をご紹介します。ともに、生命とは何か、人間とは何かという根源的な問いを発する作品です。

 1冊目は、いがらしみきおの『人間一生図巻』。山田風太郎に『人間臨終図巻』という、世界の著名人の死の模様を、死んだ年齢順に923人分集めて語った凄(すご)い本がありますが、それをヒントにして、無名の一般人を20人集め、その生まれてから死ぬまでを、すべて8ページで描いたマンガです。ただし、『人間臨終図巻』に登場するのは実在の人物ですが、本書はすべて作者が想像した架空の人間たちです。

 しかし、その面白さは風太郎先生の本にまったく負けていません。よくもまあ、こんなに奇妙で、平凡で、八方破れで、じんと心に響くような人間の諸相を描けるものだと感動するのですが、根本的な共通点は、それらの生が結局、無意味だということです。

 ところが、生命の浪費にほか…

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