記者コラム 「多事奏論」 編集委員・中川透
「カバンを預かっているので、引き取ってほしい」。そんな1通の短い手紙が、弁護士事務所から千葉県の男性(59)に届いたのは6月のことだ。2月に亡くなったおばの入院時の持ち物。30年間ほど交流がなく、久しぶりに葬式へ顔を出した程度のつきあいだった。
おばの夫と子はすでに他界し、相続人となる孫は相続放棄をしていた。その手続きをした弁護士が送り主で、男性ら親戚5人が次の相続人順位になると記し、だれかが引き取ってほしいという。
相続放棄の文言に男性はピンときた。放棄を選ぶのは一般的に、借金などの受け継ぎたくない財産が多いケース。農家だったおば夫妻には、農地があったのではないか。使うあてのない「負動産」の相続は男性も困る。地元の弁護士に放棄を相談すると、「カバンに手をつけていませんね」と念押しされた。
中身は確かめておらず、金銭…