がん免疫療法の薬の効き方に関与している腸内細菌を新たに特定したと、国立がん研究センターなどの研究チームが発表した。この腸内細菌ががん周辺の免疫環境に影響するメカニズムも明らかになり、今後、治療に応用するための研究が進むことが期待される。
論文は15日、英科学誌ネイチャーに掲載された。
オプジーボなどに代表される免疫チェックポイント阻害薬は、がんが免疫から逃れる仕組みを遮断し、「キラーT細胞」と呼ばれる免疫細胞の働きを強めて、がんを攻撃させる効果がある。ただ、長期的に効果が続く患者は20%ほどとされる。これまでの研究から、人間の腸内に100兆個以上いるという腸内細菌の関与が報告されてきたが、どの菌が影響するのかはわかっていなかった。
チームは、肺がんと胃がんの患者71人について、免疫チェックポイント阻害薬が効く人と効かない人の便の腸内細菌を調べた。
すると、薬が効いた患者では、ルミノコッカス科という種類の細菌が多いことがわかった。さらに、薬の効果を高めている細菌株を新たに特定。「YB328」と名付け、培養することに成功した。
あらかじめ腸内細菌を除去したマウスを使った実験では、免疫チェックポイント阻害薬とYB328を併用した場合に、がんが小さくなる効果が見られた。また、薬の治療が効かなかった患者の便を移植したマウスでも、YB328を投与すると、治療効果が表れた。
さらにチームは、YB328がどうやって腸から離れた場所にあるがん周辺の免疫に関与するのか、メカニズムを探った。その結果、YB328の作用によって、免疫応答の司令塔である樹状細胞が腸内で活性化し、離れた臓器のがんやリンパ組織に移動。そこでキラーT細胞を活性化させ、免疫効果が発揮されることがわかった。
YB328は、人種や地域にかかわらず、世界中で約2割の人が保菌している安全な菌だと考えられるという。国立がん研究センター研究所腫瘍(しゅよう)免疫研究分野の西川博嘉・分野長は「YB328を投与することで、免疫チェックポイント阻害薬が効かなかった人に対しても治療効果を上げられる可能性がある」とする。
論文はこちら(https://www.nature.com/articles/s41586-025-09249-8)。