選抜王者・横浜の夏は、第107回全国高校野球選手権神奈川大会の準々決勝で終わりかけていた。1点を追う九回の攻撃は2死二、三塁。主将で3番の阿部葉太が打席に入る。
フルカウント。「何としても、何が来ても打ち返す」。無心ではじき返したライナーは右中間を破り、逆転サヨナラ勝利となった。
選抜決勝は4安打3打点、守備ではダイビングキャッチ。そして、神奈川大会での起死回生の一打。いつも、ここ一番で普段以上の力を発揮してきた。
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「常勝」を求められる強豪にあって、1年夏から中堅手のレギュラーをつかんだ。2年夏からは主将を担う。村田浩明監督の理由はシンプルだ。「誰よりも甲子園に行きたい思いが強いから」
ドジャース大谷翔平のようなノーステップ打法で、左打席から広角にライナーを打ち分ける。50メートル走5・9秒の快足で次の塁を陥れる。
昨秋の新チーム発足以降、明治神宮大会、選抜と連覇した。春の関東大会準決勝で専大松戸(千葉)に敗れるまで、公式戦は27連勝だった。
迎えた最後の夏。神奈川大会の開会式前日、帽子のつばの裏にペンで大きく「愛」と書き込んだ。「好きな言葉。仲間の思いを背負ってプレーしたい」。自らを鼓舞して、7試合で打率4割8分1厘、7打点をマークした。
チームは準々決勝からの3試合は連続で逆転勝ちだった。「先制されようが、どんな展開になろうが、諦めない。それが学べたと思う」。2年連続で敗れていた決勝で、雪辱を果たした。
27年前、先輩たちが見た春夏連覇の景色。「夏の甲子園は、高校野球をやるすべての人がめざす場所。暴れたい」。自身もチームも、鍛え抜いた勝負強さを発揮して、同じ景色を見てみせる。