レッツ・スタディー!経済編㉞ 日本の自動車産業の未来
投資漫画「インベスターZ」にNMB48の安部若菜さん(23)、松岡さくらさん(22)、吉見純音さん(17)が入り込み、同漫画のキャラクターである「道塾学園」投資部員たちと一緒に経済を学ぶ連載。今回のテーマは「自動車産業」です。(構成・阪本輝昭)
衝撃の「トランプ関税」、日本の車産業に打撃? 安部若菜さん
あべ・わかな 2001年、大阪府生まれ。18年、NMB48に加入。愛称わかぽん。アイドルであり小説家。「小説 野性時代」で「描いた未来に君はいない」を連載中。
安部若菜「さくらちゃん、今日(6月24日)が22歳の誕生日だよね。おめでとう!」
松岡さくら「あ、ありがとうございます!」
安部「プレゼント、何がほしい?」
松岡「自動車……」
安部「じ、自動車? それは無理よ!」
松岡「いえいえ、今のは独り言です。最近、日本の自動車産業の未来を考えることが多いもので……」
神代圭介(「道塾学園」投資部主将)「そういえばトランプ米大統領が4月、輸入車に25%の追加関税を発動しましたね」
財前孝史(投資部員)「従来の一般関税(2.5%)に上積みされるんですよね」
神代「乗用車は日本の対米輸出額の約3割を占める。追加関税が日本の自動車産業にとって大きな打撃となるのは間違いない」
吉見純音「自動車は日本の基幹産業だといいますよね。実際、どのくらいの経済規模なのですか?」
宮宇地俊岳(追手門学院大教授)「日本自動車工業会の資料によると、2022年、自動車製造業の製造品出荷額などは62兆7942億円。23年の自動車輸出金額は21.6兆円、自動車関連産業の就業人口は558万人に上るとあります」
吉見「そ、そんなに! まさに日本経済を支える産業なんですね」
財前「高い関税をかけて、値段が高くなると困るのは米国のユーザーなのでは?」
安部「確かに。日本車をわざわざ選ぶお客さんはそう簡単には他国車に流れない気がするなぁ。日本車が好きだから買うんじゃない?」
松岡「技術力や安全性の高さなど、際だっていますよね。うちの車も古いですが、故障ゼロです。ちゃんとメンテナンスをしていたら長く乗れるのって強みですよね」
学業とアイドルの両立で感じた、自動車の恩恵 吉見純音さん
よしみ・あやね 2007年、兵庫県生まれ。22年、NMB48加入。愛称よしみん。
吉見「私のうちはハイブリッド車(HV)で、よくNMB48劇場と自宅の間を親に送迎してもらっているのですが、乗り心地は快適で燃費もよくて、技術力の恩恵をすごく受けています。車の中で睡眠をとったり、軽食をとったり、勉強したり。車がなければ学業とアイドルの両立は無理だったかも……と思うくらいです」
松岡「私も、劇場公演後に迎えに来てくれる母と車の中で交わす何げない会話が大切な時間です。安心できて、元気も出て。車内がすごく静かだから、落ち着いて話せます」
宮宇地「日本車の技術力の高さを守ってきたものの一つが『すり合わせ型』と呼ばれる生産方式です。ある製品のために特別に設計された部品を使い、それを微細に調整して組み合わせ、製品の性能を最大化させてゆく」
安部「日本の職人芸というか、繊細なものづくりの感覚が生かされる方式ですね」
吉見「途中で少しでも『ズレ』が生じてしまったらうまくいかないですもんね」
神代「一方、『組み合わせ型』の生産方式をとる欧米などの自動車メーカーは、既存の部品をうまく寄せ集めて、色々な最終製品を生み出してきた。その方式が電気自動車(EV)の生産などには適していたんですよね」
財前「そのぶん、EV分野では欧米メーカーが先を行ったということですね」
EV、自動運転…技術革新で世界をリード! 松岡さくらさん
まつおか・さくら 2003年、大阪府生まれ。21年、NMB48に加入。愛称さくら、さくぱん。
松岡「EVについては、日本での普及率も課題ですよね。充電スポットがまだ多くない」
安部「自動車産業の未来に横たわっているのは、関税問題だけじゃないんだなぁ」
宮宇地「とはいえ、新たな時代のニーズに即した技術の開発と実用化が待たれている今は、技術力で勝負してきた日本のメーカーにはチャンスでもあるといえます」
松岡「そうですね! お年寄りでも安全に移動できる自動運転システムの開発などで世界をリードしてほしいなと思います」
吉見「休息場所、コミュニケーションの場所、自分と向き合える場所。車の『空間としての価値』もいっそう大事だと思います」
神代「空間としての価値か……」
3人それぞれ、「理想の自動車」は?
安部「私たち世代は所有欲が薄いといわれています。周りの友達をみても、確かにそうかなと。『単なる移動ならレンタカーやカーシェアで十分』となりがちです。じゃあ皆は、どんな車なら欲しくなる?」
吉見「私はさっき言ったように車が『第二の生活空間』みたいなところがあるので、極小のキャンピングカーです。机とソファがあって、休んだり食事したり、勉強もできる車。もう一つの家として、落ち着ける空間になるとうれしいです」
松岡「私はとにかく、外見がかわいい車。パンダの顔をしていたら最高ですね。太陽光発電で走って燃料はタダ、渋滞にはまったらプロペラが出て空を飛べる……。そんな空陸両用車、あったら楽しいな」
安部「私は『1人乗りホテルカー』。目的地を伝えてシートで寝ていたら勝手に着く車。お店を探すのが面倒な日は『ここから30分以内のおいしいお店に連れていって』とか指示するんです。AIが私の好みの料理や店の雰囲気も把握し、的確に場所選びをしてくれる」
宮宇地「皆さん、すばらしいですね!」
安部「ちょっと夢物語すぎますかね……」
宮宇地「いえいえ。『車はお金持ちのぜいたく品』という常識を壊すところから、自動車産業の発展は始まりました。荒唐無稽にみえる発想こそ、技術革新を生み出します」
松岡「私たちアイドルも同じかも知れませんね。無謀とも思えるくらいの目標を掲げてこそ殻を破れるというか……」
安部「おっ、さくらちゃん! 何か胸に期するものがあるみたいだね。聞かせてよ」
松岡「あっ、それは今夜の生誕祭(ファンやメンバーが劇場で松岡さんの誕生日をお祝いする催し)で言おうと思います!」
安部「あ、そりゃそうよね……」
◇
追手門学院大学の宮宇地俊岳教授が経済を知るヒントとなるキーワードについて解説します。
【解説】「すり合わせ型」で強みを発揮した日本の自動車産業
第2次世界大戦後の1955年、日本の技術のみを用いた純国産車(トヨタの初代クラウン)が開発されました。この年には旧通商産業省の「国民車構想」が報じられ、自動車の「大衆化」が進む上での節目の年ともなりました。
ただ、狭い日本での急速な車の普及は交通事故増加や大気汚染を招き、オイルショックによるガソリン価格高騰などの問題も起きました。日本メーカーは安全で故障しにくく、環境にやさしく、低燃費な車の開発を競い、それが後に自動ブレーキシステムやハイブリッドエンジンなどの実用化につながります。
ものづくりには「組み合わせ型」と「すり合わせ型」があります。「日本のもの造り哲学」(藤本隆宏著、日本経済新聞出版)によると、組み合わせ型(モジュール化)は「ありもの」の部品を巧みに寄せ集めるタイプ。欧米の自動車メーカーによくみられます。
すり合わせ型は、ある製品の…