来年町制100年を迎える奈良県王寺町で、地元愛にあふれた文学作品が相次いで生まれている。創作した作者にはそれぞれ接点があり、まるで連鎖反応のように作品が生み出されてきた。
恋愛小説や児童書で知られる作家の小手鞠(こでまり)るいさんは2021年、王寺町を舞台にした小説「ラストは初めから決まっていた」(ポプラ社)を発表、23年には「未来地図」(原書房)を出版した。
町立図書館の川井宜子(たかこ)係長によると、小手鞠さんと同町との縁は、文章を作る際に王寺町を「王子町」と間違えたのがきっかけ。名前や地名を大切に考える小手鞠さんはその申し訳なさから執筆中の小説の主人公の出身地に王寺町を選んだという。この縁から小手鞠さんは同館の名誉館長に就任した。
小手鞠さんが小説で描く王寺の風景に、考証役として関わったのが、同町地域交流課の文化財学芸員岡島永昌(えいしょう)さん(50)だ。郷土の歴史の専門家である岡島さんはこのほど、児童向け絵本「聖徳太子と雪丸」(町発行、非売品)を出した。以前執筆した物語を読みやすくしたものだ。
町のマスコットキャラのモデルとしても知られる雪丸は聖徳太子の愛犬とされ、町内の達磨(だるま)寺には石像もある。岡島さんの絵本は主人に忠実な雪丸と、飢えた人を救った聖徳太子の伝説を織り交ぜた内容。町では義務教育学校の児童らに配布する。「読んでもらって地域の文化を知るきっかけになれば」
その岡島さんを「先生」と慕うのが、ジュニア冒険小説大賞(岩崎書店主催)の受賞経験もある作家の林けんじろうさん(50)だ。
20年に大阪から王寺に移り住んだ。当初は知人もおらず、「地域デビュー」として達磨寺で開かれる人気イベント「全国だるまさんがころんだ選手権大会」に23年、鬼役のボランティアで参加。そこで運営に携わる岡島さんと知り合った。
小学生が高校生のチームに勝つなど、年齢や性別、体格に関係なく誰もが楽しめる。鬼役として参加者との駆け引きも魅力だ。「地元を舞台にした物語の題材を探していた時で感動してしまって。これはもう本にしようと」と林さん。直後に1カ月ほどで書き上げた「だるまさんがころんで」(岩崎書店)を昨秋に出版した。
じっとしているのが苦手な小学生や怒りっぽい子、気弱な大人などがだるまさんがころんだ選手権に挑むストーリー。金縛りでじっとしている力を身につけるなどユニークな展開を心がけたら、熱心な読者の子どもからファンレターも届いた。鬼役の時と同様、読者との駆け引きで得た手応えは大きい。
「アミューズメントとして、とにかく笑ってほしいですね」