朝日俳壇

俳句時評 岸本尚毅

朝刊歌壇俳壇面で月1回掲載している、俳人・岸本尚毅さんの「俳句時評」。今回は、「旧派」の実態について考えます。

 明治以降の俳句史の出発点は、正岡子規による俳句の近代化だといわれる。旧弊な「月並(つきなみ)俳句」を刷新したのが、「新派」たる子規の改革だという説明は単純明快で便利である。

 ところが、いわゆる「旧派」の実態は案外知られていない。それを調べあげたのが秋尾敏の近刊『子規に至る 十九世紀俳句史再考』(新曜社)である。

 本書によると、幕末から明治にかけては俳人たちも国学の影響を受けた。彼らは新政府の下で「教林盟社」や「明倫講社」という団体を作り、神職や僧侶と並んで「教導職」という官職を得た。この時代の俳人の社会的な活発さとしたたかさは、風流韻事のイメージとはほど遠い。以下、彼らの句を引く。

 〈名のないは一ひらもなき落…

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