文化庁が、「あしたのジョー」「のたり松太郎」などの代表作を持つ漫画家のちばてつやさん(85)の協力を得ながら、原画の保存・活用に向けた調査を始めた。背景には、貴重な漫画原画の保存状態が悪化したり、海外に流出したりと課題が山積している現状がある。ちばさんと、息子でマネジャーの千葉洋嗣さんに、国の事業への協力の思いを聞いた。
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――昔は漫画の原画(生原稿)はどのように扱われていたものだったのでしょうか。
ちばさん 原稿というものは、昔は印刷されてしまったらもうあとは用のない、ゴミになってしまうものでした。特に17歳でデビューし、小さな出版社で描いていた頃は、一切返してもらえなかった。そういう会社が倒産したりしたこともあって、実は当時の原稿は一切残っていません。
その後、大きな出版社で仕事をするようになった頃のことです。暮れの日に出版社でカンヅメになり、仕事を終えてお正月を迎えるために帰ろうと思ったら、編集部で働く人たちが、何かをゴミ箱にどんどん放り込んでいた。よくよく見たら、先輩の漫画家たちの原稿を切ったり、破いたりしたものでした。それこそよだれが出そうなくらいの、素晴らしい原稿が捨てられていたので、びっくりしてね。捨てるならと、ちょっともらったりなんかしたこともありました。
でも、当時はそういう扱いが普通だったんです。我々作者もそう。私自身、ファンレターで「主人公のかっこいいところの絵を描いて送ってほしい」なんてよく言われたけど、忙しくて描く時間がない。だから、当時描いていた野球マンガ(「ちかいの魔球」)の原稿から、ピッチャーがかっこよく投げている場面をちょきちょき切り出して、サインを入れて読者にあげたりしていました。
そんな意識はだんだんと変わり、原稿を出版社から返してもらい、大事にするようになりましたね。漫画家生活15周年や20周年などの節目に、ファンへの感謝デーとして原稿を展示したんです。一般の人たちが、ちょっと汚れたり、手あかのついたりした原稿をすごく貴重そうに、楽しそうに見ていたのが印象的でね。それから松本零士さん、石ノ森章太郎さん、赤塚不二夫さんなどなど、漫画家の友だちにも「原画はみんな大事にしておいた方がいいよ」と言うようになりました。
漫画の読者への届け方が変化してきたことも大きいですね。雑誌に1回印刷して載ったらもうそれっきりだったものが、連載したものをまとめて単行本にしたり、文庫本にしたりと何度も使われるようになった。仕事のうえでも、残しておかないといけないものだと価値観がつくづく変わってきました。
もちろん、今では出版社も原稿を大切にしてくれるようになりましたよ。今も私は漫画を描いていますが(ビッグコミック連載の「ひねもすのたり日記」)、原稿は印刷所などいろんなところを行ったり来たりしますから、途中でどこかのページが抜けてなくなってしまったりしないか、編集さんがすごく気をつけてくれる。一回一回枚数を数えて、どこか汚していないか、折り曲げていないかしっかり確かめて、大事にしてくれていますよ。
――資料的な価値から貴重な原画は保存しなければならないとの意見も聞かれます。
ちばさん 私自身は描いている本人ですから、自分のものにそんなに価値があるのかはあまりよく分からない。ただ、原画は紙にじかに黒いインクで描いて、そこに色を塗ったりする、二度と作れないものです。特に昭和初期の先輩の漫画家たちの作品には、本当に貴重なものがたくさん残っているはずですが、ちょっと危ない状況になっていると思う。
海外では特に、漫画原画を歴史的なもの、文化として大事にしなくちゃいけないという風潮になってきている。今のうちに貴重なものをできるだけ早く保存してもらいたいと心の底から思います。国をあげて守ってほしいですね。
――ちばさんにとって、原画の魅力とは。
ちばさん 自分の原画で言え…