車椅子なんてどれも同じようなものなんだから安い方がいい。そう考えている方はいらっしゃいませんか? しかし、日々使うとなれば話は別。車椅子選びに失敗すると思わぬ健康リスクとなります。ではどんな車椅子がいいのでしょうか。土曜朝刊別刷り「be」の「知っ得 なっ得」で連載した「車椅子の選び方」全4回を一本にまとめました。金太郎と得子が話をしています。
金太郎 この前、駅前の商店街を歩いていたら杖をついたおばあちゃんが目の前で転んじゃって、びっくりしたよ。
得子 それは大変。大丈夫だったの?
金 うん。幸いけがはせずにすんだけど近くだったので家まで送ったよ。買い物して帰るところだったらしい。ひざが悪くて歩くのがつらいけど、ひとり暮らしだから日々の買い物は欠かせないんだって。
得 まずは一安心だったね。でもこれからのことを考えると心配だね。車椅子を使うという手もあるんだけどな。
金 実はそう思って尋ねてみたら「車椅子を使うとますます歩けなくなりそうだし、人目が気になる」というんだ。
得 なるほど。でも怖いのは転んで大けがをすること。消費者庁によると、自宅でのケースが多いとはいえ転倒・転落で亡くなるお年寄りは交通事故の4倍以上いる。ひざが悪いのなら治療やリハビリで病院や施設に通われた方がいいと思うし、そのときはなおさら車椅子があった方が便利かも。
金 そうだね。そのおばあちゃんはご近所だったし、今度会ったら勧めてみようかな。ネットで調べたら安い車椅子もあるみたい。中には1万円もしないものがあったよ。
得 うーん、価格で選ぶのはどうかな。使う人にとって車椅子に必要な機能や性能は違うんだし、乗る人の体のサイズや状態に合わせた1台を選ばないと、かえって健康を損ねることになりかねない。
金 確かにネットで安売りしてたのはワンサイズだけだったな。でもショッピングモールや病院で貸し出し用に置いてあるような普通の車椅子で特に問題があるようには思えないけど。
得 金ちゃんが指しているのは標準型とか普通型と呼ばれている手動の車椅子ね。アルミ製のパイプフレームに合成皮革や布地のシートを張った折りたたみ式で、ワンサイズの場合の座面の幅と奥行きは各40センチ。これは身長が170から175センチくらいの人を想定した寸法だから、日本人のお年寄りにとっては大きすぎるんだよね。
金 大は小を兼ねて合理的なんじゃないの?
得 そこが大きな間違い。体の小さなおばあちゃんが体に合わない大きなサイズの車いすを使い続けたらどうなると思う?
金 そうか。そもそも手を伸ばしてこぐのが大変だろうし、姿勢も悪くなりそうだ。
得 その通り。座面の奥行きが長すぎると深く座ることができない。浅く座って背中を後ろにあずけたらお尻が前にずれて骨盤が後ろに傾く「ずっこけ座り」になってしまう。すると上体は猫背になって胸郭が狭くなり内臓が圧迫される。呼吸は浅く血行は悪くなり、結果的に足がしびれたりむくんだり腰を痛めたり。外出先の一時利用ならいいけど、備品に過ぎないものを普段使い続けていたら色んな「二次障害」が起きるよ。
金 それは大変だ…