討論会ではパールハーバー国立記念公園の様子が画面に映された=2024年3月31日午後3時28分、広島市中区上八丁堀、柳川迅撮影
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 広島市の平和記念公園と米ハワイ州のパールハーバー国立記念公園の姉妹公園協定を考える市民討論会「知っていますか? 姉妹『公園』協定」が3月31日、広島市中区の広島弁護士会館であった。約100人が参加し、パールハーバーの現地視察の報告があった。

 現地視察は県原爆被害者団体協議会(佐久間邦彦理事長)に所属する平和記念公園のガイド5人が1月に実施した。

周辺は軍事基地

 パールハーバーはいまも米軍の重要な基地だ。国立記念公園も周辺は軍事基地で、計五つの施設や記念碑からなる。市によると、これらは国立公園局が管理し、軍事施設は含まれないという。

 この日、視察報告をした大内正子さん(73)によると、「ビジターセンター」「オクラホマ記念碑」、日本軍に撃沈された戦艦アリゾナの上に立つ「アリゾナ記念館」を視察したが、「ユタ記念碑」「旧下士官宿舎」はガイドの案内できない場所で、行けなかった。

 海上のアリゾナ記念館へ船で渡る際には、カメラを海へ向けることが許されなかったという。軍の艦船が写り込む恐れがあるためだと説明されたといい、「緊張した気分で渡った」と話した。

 公園に隣接する「太平洋艦隊潜水艦博物館」も見学。核ミサイルの模型が展示されていたという。大内さんは「過去から未来にわたり核ミサイル開発をし、核抑止(戦略)を進めるという展示だった」と話した。

サミット1カ月前に打診

 続いて、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしまの岸直人さん(70)が協定の締結過程を説明した。

 協定は、G7広島サミットが約1カ月後に迫った昨年4月6日に在大阪・神戸米国総領事館から広島市に電話で打診があり、サミット中の締結が提案された。

 岸さんは、米国が「アメリカの核抑止戦略を平和記念公園が認めた」という形を「サミットの中で世界に発信する効果を期待していたのではないか」と話した。

 協定は、サミット後の同年6月29日に結ばれた。市は協定について「過去の悲しみを耐えて憎しみを乗り越え、未来志向で平和と和解の架け橋の役割を果たしていくことになる」「(サミットで発表された)『核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン』の実現に向けた第一歩として、その機運の醸成に資する」などと説明している。

 岸さんは「核廃絶を目指す平和記念公園とバランスの取れるところなのか、市は現地調査もしていない。議会での議論など十分な手続きもない」と批判した。市によると、広島市が過去に結んだ友好・姉妹都市協定では基本的に市議会で事前に議論し、締結後にも市議会の承認を求めていたという。

「メモリアル」を「公園」に翻訳

 また、国立記念公園の英語の名称は「パールハーバー・ナショナル・メモリアル」で、「記念館」「記念碑」と訳すべきところを、協定の締結過程で「公園」と表現するようになったと説明。岸さんは「わかりにくいから変えたという市の説明だった。質の違うもので協定を結ぶのは市民の理解を得にくいと考えたので、訳を変えたのではないか」と述べた。

 意見交換では「米政府のどのレベルでこの協定のことを考えてきたのか。アメリカ側からは軽く持ち出してきているように感じる」「住民の草の根の交流があるのに、屋上屋を架す形で協定を結ぶのは不思議だ」などの意見が出た。

 核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)顧問の森滝春子さん(85)は「私はあえて原爆公園と呼ぶが、(平和記念公園は)アメリカの原爆投下で大量虐殺された人々を慰霊し、核兵器を絶対否定する場だ。そこがなぜパールハーバーと姉妹協定を結ぶのか」と語った。

 討論会は教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしまと日本ジャーナリスト会議広島支部、HANWAの3団体が主催した。(柳川迅)

広島女学院高でオンライン授業

 米ハワイ州へ研修に行く広島女学院高校(広島市中区)の生徒たちがパールハーバー国立記念公園について、現地の責任者から学ぶオンライン授業が3月28日、同校であった。同公園と広島平和記念公園の姉妹公園協定の取り組みの一環で、広島市が同校に提案した。

 16人が出席した授業は、冒頭5分間のみ報道陣に公開された。市によると、トム・レザーマン管理監督者が現地からオンライン参加し、日本軍が真珠湾攻撃に至った経緯や公園の成り立ちなどを英語で説明。「平和を推進するのが自分たちのミッションと思っている」と話したという。

 授業後、岡留佑季さん(17)は姉妹公園協定について「(両公園が)同じ方向の平和に向かっているのに違いはない。最終的なゴールが同じであれば、一緒に頑張ってやっていくのは間違っていないと思います」と話した。渡辺信一校長は「(レザーマン氏から)平和の実現のために公園を運営していると聞き、安心して生徒を送り出せると感じた。広島の平和団体の方が現地に行き、『平和を求めるのでなく戦争を肯定していると感じた』という発言があったと思う。そのように捉える意味も感じ取らないといけない」と述べた。

 同校では、核軍縮や平和学を英語で学ぶ選択科目を履修する生徒らが毎年、研修でハワイを訪れ、アリゾナ記念館も見学している。今年も3月30日から6日間の日程で生徒らが訪問中だ。現地でもレザーマン氏らと意見交換をするという。(柳川迅)

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