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岐路のひまわり 司法制度改革再考

 北海道北部の名寄(なよろ)市には、小高い丘からひまわり畑を一望できる名所がある。俳優・西田敏行の主演映画「星守る犬」のロケ地にもなり、夏には多くの観光客でにぎわう。

 そんな名所がある市内で2024年7月、別の「ひまわり」が20年を経て、ひっそりと看板を下ろした。

 「名寄ひまわり基金法律事務所」。弁護士が都市部に集まり、地方では足りない問題を解決するため、日本弁護士連合会などが公的に開設した。

 全国の弁護士から月に数百円ずつ徴収し、原則3年の任期付きで各地に弁護士を派遣するのがひまわり基金法律事務所の仕組みだ。所得も保障する。だが、名寄で働くことをめざす後任の弁護士は見つからず、7代目を最後に閉鎖せざるを得なくなった。

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これまでに開設された「ひまわり基金法律事務所」

 「地域に人がいる限り、法律をめぐる問題がなくなることは絶対にない。市民からの応援を裏切るような形となり、残念でならない」

 初代の所長だった笠原裕治弁護士(52)は、そう嘆く。赴任当時は消費者金融(サラ金)やクレジットカードなどの多重債務が社会問題化し、市内でも多くの被害が出ていた。「いわゆる『行列のできる法律相談所』に近い状態だった」という。

ひまわりが表すのは「正義と自由」

 司法過疎や複雑化する人権課題などを解決するため、法曹人口の拡大を目指した司法制度改革から約20年。ひまわりのバッジをつけた弁護士の数は都市部を中心に増えたが、地方では「弁護士が足りない」との声があがる。人工知能(AI)の進化や、裁判手続きのデジタル化に伴い、弁護士の役割も問い直されている。岐路に立つ「ひまわり」の今を追う。

市民の権利「保障されていない」

 一つの法律事務所だけでは処理しきれないと考え、任期を終えた後、近隣の中核都市、旭川市に法律事務所を設立。名寄市には支店事務所を置き、市民らの法的ニーズに応えてきた。

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 弁護士法には、利害が対立する当事者同士は、同じ弁護士に相談や依頼はできないとする「利益相反」禁止のルールがある。

 笠原弁護士は名寄市の顧問弁護士を務めているため、市営住宅の家賃や市立病院の治療費などを巡るトラブルの相談は受けづらい。ほかにも、長年の業務で生じた利害関係があり、受任できない案件が多々あるという。

 その場合、これまでは近隣のひまわり基金法律事務所を案内してきた。だが、今回の閉鎖で、60キロほど離れた旭川市の弁護士などを案内せざるを得ないことも出てきたという。笠原弁護士は「市民が弁護士に依頼する権利が十分に保障されていないのではないか」と懸念する。

 ひまわり基金法律事務所と連…

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