このコラムは…

何かと慌ただしい毎日、ニュースの消費サイクルもすっかり分単位、秒単位に。そんな時代だからこそ、あえて数百年、数千年の長い時間軸で過去をふりかえり、現代を見つめ、迫り来る未来の波を考えます。

 大正期に活躍した口語自由律の俳人、尾崎放哉(ほうさい)は好んでアリを詠んだ。

 〈かぎりなく蟻(あり)が出て来る穴の音なく〉

 〈蟻にたばこの煙りをふきつける〉

 地面にはいつくばってアリとたわむれた放哉が亡くなったのは99年前の春。瀬戸内・小豆島のゆかりの寺では4月に百回忌が営まれた。住民ら60人が記念の角塔婆(かくとうば)に手を合わせ、放哉の愛した日本酒を墓に注いだ。

 「才にあふれ、酒におぼれた人生でした。『心おきなく飲んで』と墓にお酒を供えるファンが絶えません」と日本放哉学会副会長の森克允(かつまさ)さん(82)。長く放哉の顕彰に努めてきた。

 旧制一高、東京帝大を出て、保険大手に勤めた放哉はエリート中のエリートながら、酒乱の度が過ぎた。職を失い、妻と別れ、親との関係も断つ。肺の治療も拒んだ。

 「医療を遠ざけ、家族と連絡を絶ち、引きこもる。いまなら放哉はセルフネグレクト(自己放任)と診断されてもおかしくありません」。そう話すのは東京医療保健大学の岸恵美子教授(65)。保健師として16年間、多くの孤立者と接した。ゴミ屋敷にこもり、行政の介入を拒むような人たちを支援する手立てを探ってきた。

 内閣府の作業部会は今春、死後8日経つまで見つからなかった人を孤立死と定義。警察庁の初の全国調査で、昨年の孤立死者は2万人を超えていたことがわかった。「遅まきながら全体像が見えてきました」と岸さん。

 高齢社会白書によれば、単身の高齢者の4割は孤立死の不安を抱える。会話が「週に1度以内」という人も少なくない。孤立に苦しむのは人間の性(さが)なのだろうか。

 「アリも社会性の生き物。やはり孤立には弱い。集団から1匹を引き離すと、寿命が急に縮みます」。国立機関「産業技術総合研究所」の研究グループ長である古藤日子(あきこ)さん(42)は話す。

二次元コードを背負った実験アリ=2025年6月9日、茨城県つくば市、山中季広撮影

 野生下では数百匹、数千匹の群れで生きるクロオオアリが、実験室で何日間生きられるかを調べた。10匹の群れで生きるアリは半減するまで約67日だったが、1匹で暮らす隔離アリたちの半減寿命はわずか7日。10分の1に縮んだ。

 集団アリはエサを収集すると…

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