Smiley face
将棋の叡王戦第5局で伊藤匠新叡王に敗れ、大盤解説に臨む藤井聡太名人・竜王=2024年6月20日午後6時58分、甲府市の常磐ホテル、上田幸一撮影
  • 写真・図版

杉本昌隆八段の棋道愛楽 

 6月20日、将棋界で大きな出来事がありました。叡王戦五番勝負第5局で伊藤匠七段が藤井聡太叡王に勝利。これで対戦成績を3勝2敗として初の叡王に輝いたのです。藤井叡王は初めてのタイトル戦敗退。連続タイトルの記録は22でストップしました。

 当日の将棋を振り返ります。最終戦の第5局は振り駒で先手後手が決まります。いつもより念入りに振り駒をする記録係、この一局の重みが伝わるかのようです。私は自宅のパソコンでAI(将棋ソフト)を使いながら、またABEMA放送の評価値などを見ながらこの将棋を検討していました。

 中盤、藤井叡王が有利になる唯一の手順をAIが示します。しかしそれは銀をタダで捨てるといういかにもAI的な構想で、人間にはまず思い浮かびません。この将棋を観戦していた多くの人が「さすがの藤井叡王も発見できないのでは?」と固唾(かたず)をのんで見守ったことでしょう。

 もっとも私は、藤井叡王はそれを必ず指すと確信していました。これは彼がAIを使い始める前、少年時代から得意とする大技だったからです。

 長考の末、やはり藤井叡王はその手を選び、形勢リードに成功。その後も難解な終盤をまるで数学の公式で解くかのように理詰めで解決していきます。圧巻の才能でした。

 しかし、ここからドラマがお…

共有