就任間もない石破茂首相が東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連首脳会議に出席した。衆院解散後の慌ただしい「外交デビュー」を、識者はどう評価するのか。東南アジアの国々を取り巻く環境と首相が提唱する「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の親和性はあるのか。国際政治学者で神奈川大の大庭三枝教授に聞いた。
――ASEAN各国は米中との距離がそれぞれ異なり、一枚岩ではない。状況をどう見るか。
米中関係が緊張するなか、東南アジアの多くの国は、どのような形で双方とチャンネルを維持するかに腐心している。中国と対立しているフィリピンやベトナムも、長期的に見て関係を断つことはないだろう。確かにフィリピンは南シナ海で中国との緊張がとても深刻だが、かつてのドゥテルテ大統領のように経済的援助を期待し、逆に中国と関係を深めようと動く政権が生まれるかもしれない。
カンボジアやラオスは、国家として自立するための経済発展が最優先。そのために中国への依存を深めている。ただ、それを良しとしているかどうかは別問題だ。過度な依存への問題意識はあるようで、特にラオスは中国以外に投資を呼び込めておらず、どうしても中国に傾きがちという現状はある。
東南アジアの国々を「米国寄りか、中国寄りか」で色分けするのは難しい。全般的に中国の資本や援助が入っている。白黒がはっきり分かれるオセロゲームのように情勢を見るのは単純すぎる。
ただ、南シナ海のほぼ全体に主権を有しているという中国の主張の激しさと、埋め立てや軍事施設の建設が急ピッチで進む現状に対して、東南アジア各国は危機感は持っている。
変わる南シナ海と東シナ海
――日本国内には、南シナ海に向いている中国の矛先が、いずれ尖閣諸島を含む東シナ海に向くとの危機感から、早い段階で東南アジアに関与しておくべきだという考え方がある。
東南アジアとの関係を緊密化…