ウスワ村の診療所に到着した救急車を歓迎する子どもたち=2025年8月、タンザニア、浜島直美さん提供

 アフリカ最高峰・キリマンジャロのふもと、タンザニアの村を今、愛知県大府市でかつて使われていた救急車が走っている。医療設備が乏しい地域で、人命救助に役立ててもらおうと市民有志が寄付金を集め、贈った。関係者は、これを機に経済的自立を手助けする計画も進めている。

 贈ったのは、教員や医療関係者らでつくる団体「ライフサポートプロジェクト」(北瀬尚之理事長)。

 中心の1人が、10年以上前からアフリカへの支援活動に取り組んでいた大府市立小学校教諭の浜島直美さん。タンザニア・ウスワ村出身の男性の講演を聞いたのをきっかけに、村へ本を贈り、自ら赴いて、習字など日本文化の体験授業をするなどしていた。

 浜島さんは2年前の訪問時、アメーバ赤痢にかかり、現地の乏しい医療環境を実感した。村では、重症患者は悪路をバイクで1時間以上もかけて町の病院まで搬送されていた。

 そこで、引退する救急車を現地へ贈ろうと、同団体を昨年1月、有志と立ち上げた。

 大府市消防本部に協力を要請。同消防本部から2014年から10年使い、走行距離が20万キロを超え、更新期を迎えていた救急車を、ストレッチャーや人工呼吸器など器具と一緒に提供してもらえることになった。

 アフリカへの輸送費を集めるため市民に呼びかけ、75万円の寄付金が集まった。今年3月には、ウスワ村から救急車の運営にあたる協会の牧師と医師が大府市を訪れ、消防隊員から車や機器の操作方法を学んだ。3月にあった贈呈式に出席したタンザニアのバラカ・ハラン・ルヴァンダ駐日特命全権大使は「現状は地方には支援が届きにくい。この車両が多くの命を救ってくれると思う」と語った。

 救急車は5月、横浜港から貨物船に乗せられ、タンザニアの首都ダルエスサラームの港を経て、車で10時間、標高約1500メートルにあるウスワ村に8月13日に着いた。同国内の輸送だけで課税を含め日本円でさらに103万円かかったが、現地の住民たちが負担した。

 到着後、浜島さんは村の学校で聴診器を教材に命の尊さを教える授業をした。「救急車が壊れたら修理には知識が必要で、そのために勉強することが重要と説明しました。こういった形で教育にも役立ててもらうようにした」

 聴診器を使い、命の尊さを学ぶ授業は現地で続けられていて、ライフサポートプロジェクトには「授業に意欲的に取り組んでいる」などとする感謝のメールも届いている。

 今後、村の特産を使ったお菓子を売って生計にあててもらう活動の後押しもする。同団体の北瀬理事長は「与えるだけでなく、使いこなし、そして新たな救急車を造るぐらいの自立につなげる手助けができれば」と話している。

消防車両の海外寄贈は46カ国に

 中古の救急車やポンプ車など消防車両については、公益財団法人・日本消防協会(東京)がアフリカや中南米、アジアへ無償で寄贈している。

 国際貢献の一環で1984年から始めた事業。国内の消防機関から提供された消防車両を今年3月末までに46カ国、計1796台を贈っている。送り先の指定、要望は受け付けていない。

 愛知県大府市消防本部は、これまで15台を同協会に提供している。

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