全日本断酒連盟のホームページ。「お酒は断酒会でやめられます」と呼びかけている

 アルコール依存症では、患者本人より家族が先に音を上げることが多いとされる。本人は自分が病気であることを認めず治療を拒み、家族は誰も頼ることができずに苦しみがちだ。この病気にどう向き合えばいいのか。

 約30年にわたりこの病気を診てきた依存症専門医の成瀬暢也(のぶや)・埼玉県立精神医療センター副病院長に聞いた。

  • 「こどもの日じゃけ飲ませて」アルコール依存症で苦しむ家族、糸口は

切実な家族の声が気付きに

 ――アルコール依存症の患者を持つ家族は、どんな状態に追い込まれますか。

 とても高いストレスにさらされています。2008年、断酒会と医療機関を通じて、家族について全国調査を行いましたが、「極端に精神健康状態悪化」が16%、「強いストレス状態」が59%という結果でした。酒の問題が起きてから支援につながるまでに長い年月がかかり、本人だけでなく家族も孤立し、偏見にもさらされています。その間は、家族が負担を一手に引き受けているのです。

 そもそも、この病気は患者のごく一部しか治療につながっていないと推定されており、こうした家族はかなりの数に上るでしょう。さらに、本人が断酒してからも腫れ物に触るような状態になって、家族の心労はすぐには終わりません。

 15年には自治体の精神保健福祉センターなどの協力も得て全国調査を実施しましたが、自由記述欄には配偶者や親が切々とつらさを訴える言葉があふれ、私は医師として表面しかみていなかったことに気付かされました。今は家族の状況によっては外来で別にカルテをつくって診療するなど、家族独自にサポートもするようにしています。

巻き込まれ 本人を責めて修羅場に

 ――なぜ、家族はそんなに苦しみにさらされるのでしょうか。

 アルコール依存症という病気の本質が関係します。この病気は患者の根底に、人間不信と自己否定があります。人から癒やされることがなく生きづらさを抱えるあまり、飲酒という「孤独な自己治療」で自らを癒やしてしまうのです。

 治療はまず、一人の人間として患者本人に敬意を持って向き合い、信頼関係を結ぶところから始めなければなりません。この病気の患者は「厄介で関わりたくない」と思われがちですが、「居場所」と「仲間」によって劇的に回復するのです。

 しかし、家族だからこそ、患…

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