ファクトチェック対象=大阪府神社庁が6月13日に出した文書

大阪府神社庁が作成し、X(旧ツイッター)で拡散された文書。イスラム教徒が「『邪教だから火をつけた』と供述している」などと記されている

 (大阪市内の神社で起きたぼやについて)「犯人は捕まりました」「犯人はイスラム教徒で『邪教だから火をつけた』と供述している」(6月13日に府内の神社に送信。15日、神主を名乗る個人のXに投稿されて拡散した)

神社のぼやの「犯人はイスラム教徒」 文書がSNSで拡散

 大阪府神社庁の文書は15日、Xに投稿され、広まった。投稿には文書の写真と共に「イスラム教徒による神社への放火です」「神社を邪教とする外国人との、多文化共生など無理な話だ」との記述が添えられていた。見られた数などを示す「インプレッション数」は翌16日午後5時ごろまでに472万回以上になった。現在は削除されている。

 投稿に対する反応には、「イスラム教こそ邪教そのもの」「ムスリムによる治安悪化は我慢の限界を超えております」といった内容もあった。

 朝日新聞は、府神社庁に文書の提供を依頼したが、「内部にあてた文書だから」として拒まれた。ただ、拡散した文書が実物であることは同庁に確認した。

 では、文書に記された内容は事実なのか。大阪府警に取材した。

 府警によると、神社の境内で同6日夕、ぼやが発生した。建物に被害はなく、落ち葉が焼けた。複数の子どもがマッチに火をつけていたという。管轄する警察署は「子どもの火遊びだと判断している。ネット上で言われているような(邪教だから火をつけたという)供述はない」と朝日新聞の取材に見解を示した。

 また記者は、神社に設置された防犯カメラの映像を確認した。映像には、小学生くらいの子ども3人がマッチを擦り、投げ捨てる姿が映っていた。

塀の横にあった落ち葉に火が付けられ、ぼやになった現場。神社の宮司によると、本殿がある塀の内側にも使用後のマッチが落ちていたという=2025年6月17日、大阪市、甲斐江里子撮影

「注意喚起するため」文書を発出

 府神社庁の文書はどのような経緯で作成されたのか。

 府神社庁の説明では、神社の宮司から今月10日、電話でぼやの発生の報告を受けた。同庁は同13日、府内の他の神社に注意喚起するため、ぼやの経緯を文書にまとめてファクスやメールで府内の570の神社に送った。送る前に、宮司に改めて電話して経緯を確認したという。

 文書には「犯人はイスラム教徒で『邪教だから火をつけた』と供述しているとのこと」との記述の他に、「防犯カメラに犯人が映っており犯人は捕まりました」とも記されていた。取材に対応した府神社庁の参事は、「宮司から聞き取った内容を書いた」と語った。

食い違うそれぞれの説明

 一方、神社の宮司は朝日新聞の取材に対し、防犯カメラの映像に、イスラム教徒に特徴的な格好をした子どもも映っていたことを根拠に、イスラム教徒による放火があった、と府神社庁に伝えたことは認めた。しかし、「警察からも供述内容は知らされておらず、文書に記されたような話はしていない。発出された文書の内容を見て驚いた」と説明した。

神社の宮司によると、ぼやで本殿を囲む塀の横にあった落ち葉が焼けた=2025年6月17日、大阪市、甲斐江里子撮影

 府神社庁と宮司の説明が食い違っている。府神社庁は「宮司が内容を否定しているなら、伝聞に齟齬(そご)があったとしか言えない」とした。

 神社の近くにはイスラム教のモスクがある。

【判定結果=誤り】

誤り

 大阪府警は、文書に記された供述の内容を否定した。子どもの「火遊び」と判断しており、逮捕もしていない。

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