静岡県立富士高校(富士市)野球部は2年半前、元大リーガーのイチローさんから直接指導を受けた。近隣の小学生など子どもたち向けに部員が続けてきた野球教室や体験会がきっかけだった。指導を受けた部員たちは今春までに卒業したが、イチローさんが実際に使ったバットが学校に贈られ、一流の技術の重みを伝えている。

野球教室でイチローさんのバットを振る子ども=2025年5月4日午前9時15分、富士高校、斉藤智子撮影

 イチローさんは2020年から高校を訪ねて野球部を指導し、自ら考えてプレーすることを身をもって伝えてきた。富士高を訪れたのは22年12月上旬の2日間。部員と一緒に体を動かし、打球に対する判断や打席に入る時のリズムを大切にすることなどをアドバイスした。

部員に守備練習を指導するイチローさん=2022年12月4日、静岡県富士市の県立富士高校、代表撮影

 指導を見守った稲木恵介監督(46)は、「投げる時も打つ時も、体の力を全部伝えることを大事にしていた」と振り返る。イチローさんの指導内容をふだんの練習メニューに採り入れ、体験していない部員たちには当時の動画を見せるなどしてきた。

 そんなころ。高校野球に導入された細い低反発バットに部員たちが手こずった。うまく球を捉えにくくなっていた。

 イチローさんの鋭く正確なスイングをイメージできるようにするにはどうしたらいいか。稲木監督は昨年6月、指導を受けた部員の進路報告とともに、イチローさんに手紙をしたためた。「バットを1本いただけないでしょうか」。優れた打撃イメージを部員たちが体感できれば、不振を打開できるのではと期待した。すると今年3月、バットが届いた。

 投手の米山承さん(3年)は「思ったより細くて、これでミートしているんだ、と驚いた」と話す。打撃痕が集まった部分が残り、「バットの同じところで球を捉えていたことを直接知ることができた」。

イチローさんから贈られたバットには、打撃痕が残る=2025年5月4日午前11時56分、富士高校、斉藤智子撮影

 定期的に部員が開いている野球教室などでも、子どもたちにイチローさんのバットに触れてもらっている。5月4日、富士高の部員たちが学童野球の親善試合と野球教室を運営する「第2回富士高ベースボールフェスタ」。富士第一少年野球クラブのキャプテン白旗星良さん(小学6年)はイチローさんのバットを振り、「むっちゃうれしい」と目を輝かせた。イチローさんのレーザービーム送球を動画で見て以来の憧れの選手だ。この日の野球教室で教わった盗塁のコツも、試合で生かしてみたという。

富士高校野球部の野球教室=2025年5月4日午前9時49分、富士高校、斉藤智子撮影

 野球教室は、部員たちが自らのプレーを振り返る機会にもなっている。米山さんは、子どもたちの動きを観察し、改善点を自分の言葉で教えることが、自身の動きを見直すことにつながっているという。イチローさんが伝えた「自ら考える野球」を実践しているようだ。

 「野球を楽しいと子どもたちに思ってほしい」と米山さん。イチローさんから高校生へ、子どもたちへ。野球の魅力は確かに伝わっている。

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