【ニュートンから】死因を見極める法医学(2)

死因を見極める法医学

おことわり:本記事には遺体の描写などについての記述が含まれます。

 解剖の長所は,臓器を実際に見たり取りだしたりして調べられることだ。外見上は目立った傷がない場合でも,解剖して皮膚をめくってみて,首の筋肉内出血(筋肉内に血液が漏れだす出血)や扁桃腺のうっ血(静脈の血液が流れなくなってたまった状態)があった場合は,首を絞められて殺された可能性が高いと判断できる。

 千葉大学では,CT検査で腹部に大量に出血していることはわかったものの出血源がわからず,解剖して初めて腸間膜(腸をつり下げるように定着させている腹膜の一部)の断裂による出血であることがわかった事例があった。これは,腹部を踏んだりけられたりした結果,死に至ったことが警察の捜査で後日,判明した。

 出血は,生きているときに損傷した証拠である。亡くなった人を殴っても,皮下出血(皮膚のすぐ下の出血)や筋肉内出血はおきない。仮に,外表検査やCT検査で骨折していることがわかったとしても,それだけでは死後に骨折した可能性を否定できない。解剖して骨折部分の周囲の皮下や筋肉内に出血があることが確認できれば,生きているときに骨折したと判断できるのだ。

異物を発見できる CT検査

 法医学領域において,死後画像検査としてCT検査を日本ではじめて取り入れたのは千葉大学で,2006年のことだった。CT検査では遺体をベッドにのせ,ベッドのまわりをドーナツ型の機械が高速で回転しながら,360°さまざまな方向からX線を照射し,遺体の輪切りの画像を何枚も撮影する。その1枚1枚の画像をコンピューター処理によって重ね合わせると,遺体を立体的にとらえることができる。千葉大学大学院医学研究院附属法医学教育研究センター長の岩瀬博太郎教授はこう話す。「20年くらい前までは全身を撮影するのに4時間くらいかかっていましたが,コンピューターの処理速度が飛躍的に向上したため,現在では10分間もあれば撮影が終了します」。

 CT検査の長所は,金属片な…

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