「火星に人を送り込む」という壮大な目標を掲げる起業家イーロン・マスクが、自身の企業の本社を移転したテキサス州で、「市」をつくろうとしている。世界一の富豪が「理想郷」を目指す動きだが、住民からは反発も上がる。
米テキサス州南部、メキシコと国境を接する町ブラウンズビル。市街地から海岸へ延びる一本道を突き進むと、宇宙企業スペースXの巨大な発射台が見えてくる。
近くで打ち上げの観覧施設を営むキース・レイノルズは、2016年にこの地に移り住んだ。自宅のすぐ裏、幅数十メートルの川の対岸はメキシコだ。
「文明や人混みから離れた、この土地が好きだった」
移住後ほどなくして、スペースXの関係者が近くに移り住み始めた。レイノルズの自宅のすぐ横には、真新しい住宅が数棟立ち並ぶ。同社の幹部の住宅で、一晩で母屋が建った。「作業はとても速かった」という。
従業員たちは「秘密主義」
従業員たちは「秘密主義」を貫く。レイノルズによると、移り住んだ隣人は若い男性らだが、ほとんど会話をしたことがなく、あいさつをしても返ってこないこともあるという。
レイノルズは、マスクが手がけるロケット事業は支持している。それでも、急激に進む開発に「私の暮らしにどう影響するのかわからない」と戸惑い気味だった。
一つ、大きな変化が訪れようとしている。
スペースXの従業員らは昨年、周辺をロケットの発射拠点の名前にちなみ「スターベース市」にする手続きを地元キャメロン郡に申請。5月3日に選挙があり、認められれば市となる。実現すれば、同郡で30年ぶりだ。
郡の資料によると、「市長」…