ウクライナ国立オデーサ歌劇場首席客演指揮者の吉田裕史さん(左)と在神戸ウクライナ名誉領事の岡部芳彦さん=2025年2月5日午後4時39分、神戸市中央区、原野百々恵撮影

 音楽を通じて「ウクライナで続く戦争を日本でも知ってほしい」と、タクトを振る指揮者がいる。ウクライナ国立オデーサ歌劇場で首席客演指揮者を務める吉田裕史さん(56)。3月にウクライナから約60人のオーケストラを連れ、神戸でコンサートを開く。

 2022年2月、当時イタリアにいた吉田さんは、ロシアのウクライナ侵攻を知ってぼうぜんとしたという。「うそだろ……いま21世紀だよ、と」

 その前年、200年以上の歴史がありウクライナ最古の歌劇場であるウクライナ国立オデーサ歌劇場の首席客演指揮者に就任した。

 1999年にヨーロッパに渡り、イタリア・ボローニャ歌劇場で首席客演指揮者などを務めてきた吉田さん。2020年に初めてウクライナ国立オデーサ歌劇場に招かれ「蝶々夫人」で指揮をした。

 慣れ親しんだ明るく、うねるリズムが特徴のイタリアの楽曲とは違い、ウクライナの楽曲は重くて荘重で渋いという。

 公演後、オーケストラと「相思相愛」を意味する首席客演指揮者への就任を依頼された。

 「コロナ禍後はウクライナで指揮しよう」と思っていた矢先で起きたウクライナ侵攻だった。

 当時、ヨーロッパにいる著名な音楽家たちはロシアかウクライナのどちらにつくのか、選択を迫られたという。

 「表明しないと、人として疑われた」

 吉田さんは「音楽には普遍的な力がある」という信条から「私は同僚であるオデーサの音楽家たちと共に演奏を続けます」というメッセージをオーケストラへ送った。

 日本政府からの退避勧告もあり、ウクライナ入りできたのは侵攻が始まってから1年半後の23年9月だった。

 戦時下のオデーサ歌劇場で指揮をしたが、108人いたオーケストラは戦死や徴兵、国外避難などで80人にまで減少。防空警報が鳴り響く中でリハーサルを重ねた。

 一方で、演奏を聴きに来た兵士らが涙を流す姿を見て「このオーケストラの音楽を日本にも届けたい。戦争が悪化している現状を知ってほしい」と強く思ったという。

 同歌劇場オーケストラの来日公演に向けてクラウドファンディングを募り、計2千万円を超える寄付が集まった。3月に神奈川、神戸、北海道の3公演が実現した。

 在神戸ウクライナ名誉領事館の岡部芳彦名誉領事(51)の助言を受け、コンサートはウクライナの作曲家、ミコラ・リセンコの「タラス・ブリバ」序曲で幕を開ける。

 ウクライナ建国の叙事詩のオペラで、自主独立を重んじるウクライナ人の文化を表現した曲だという。

 吉田さんは「日本には『困ったらお互い様』という言葉がある。音楽を通じてウクライナの問題を知ることで、何が起きているのか知って欲しい」と話す。

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 神戸公演は神戸市中央区浪花町の神戸朝日ホールで3月7日午後7時開演。S席1万2千円、A席1万円、学生席3千円。5万円のパトロネージュ席は、S席料金を引いた3万8千円が同オーケストラに寄付される。詳細、購入は神戸朝日ホールの公式サイト(https://www.kobe-asahihall.jp/events/eid-1237/)で。

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