ロシアによる全面侵攻が続くウクライナのアンドリー・ピシニー中央銀行総裁はこのほど、主要7カ国(G7)各国が凍結したロシアの資産を没収し、ウクライナへの武器支援や復興援助に活用するよう訴える論文を朝日新聞に寄稿した。
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全面侵攻が始まった2022年2月以来、日本や欧米が国内で凍結したロシアの資産は、ロシア中央銀行が各国中央銀行に預けた外貨準備や国債など外貨資産だけで約3千億ドル(約46兆円)前後にのぼるとされる。侵攻の長期化で各国がウクライナ支援の継続に苦慮する中、凍結資産を支援に活用する議論は以前にも増して活発になっている。
欧州連合(EU)は3月の首脳会議でロシア中央銀行の凍結資産から生じる利子や配当などの活用を進めることで基本的に一致した。イエレン米財務長官は各国が団結して行動するよう訴えており、5月のG7財務相会議でも重要テーマになりそうだ。
ただ、G7の各国内では慎重・反対論も根強い。ロシアが激しく反発し対立がエスカレートするのを避けたいとする考えがある。さらに、中国や中東、アジアなどの新興国には、将来的に自国の資産が凍結され、没収の対象となるのを恐れる国もある。一方、G7側の国には、ドルやユーロなどの資産を引き揚げられたり、金など別の形の資産に変えられたりして、自国の通貨や財政が不安定化してしまうのではないかとの懸念がある。
ウクライナではトランプ前大統領の影響を受ける共和党議員らの反対で最大の支援国・米国からの支援が止まり、EUからの弾薬提供も足りていない。各地が連日空爆にさらされ、戦場でも窮地に立つ中、ピシニー氏は各国に「勇気ある決断」を下すよう訴えている。
ピシニー氏の寄稿は以下の通り。
全面侵攻下、経済運営に教科書はない
いわれのないロシアの軍事侵略戦争が2年を超えた今、全面的な戦争を強いられている国の中央銀行総裁として、私は世界の政策立案者、金融コミュニティーに訴えたい。
ウクライナは戦争の日々、防衛努力を財政面から支え、マクロ経済を安定させるため、手に入る限りの手段を求め、蓄積している。国際的な財政支援は、ウクライナ軍が欧米提供の武器を使うのと同じく、命と自由、支援国と共有する価値を守る戦場においてウクライナを財政面で守る強力な要塞(ようさい)を築くことを可能にしてくれた。チームワークによって、金融と支払いシステムを稼働させ、通貨に対する信頼を維持し、26.6%だったインフレを5.1%に抑えることもできた。
全面的な侵略と緊張、不確実…