明治大学教授の重田園江さん

政治季評 重田園江さん

 ようやくガザで停戦が始まり、人質交換が進められている。と思ったら、トランプ米大統領がガザを「所有」すると言い出した。そしてウクライナには、停戦という名の領土割譲を働きかけようとしている。これまでの経緯を考えると、二つの地域の混迷は今後も続きそうだ。

 実はウクライナ戦争とガザ侵攻とは、歴史的に共通の根を持っている。今回はこの点を掘り下げてみたい。

 ロシアがウクライナに越境攻撃をしかけた際、プーチン大統領は「ウクライナのネオナチを掃討する」と宣言した。これには歴史的な経緯がある。第2次大戦勃発に伴いソ連領となった東ガリツィア(リビウを含む西ウクライナ)では、ウクライナ人国家を志向する民族主義運動が盛んになっていた。民族主義者たちは、長い間圧政を強いてきたポーランドとも、スターリンのソ連とも敵対し、独立に手を貸してくれる存在としてナチとの共闘を選んだ時期があった。ウクライナ人もその時起きたユダヤ人虐殺に加担した。

 東欧にユダヤ人が多かったのは、十字軍以来西欧で追放対象となり、庇護(ひご)を求めてポーランド王国へと移住した歴史による。だがユダヤ人は、17世紀以降はポーランドでも迫害を受けるようになっていた。

 東欧地域の民族分布は複雑に重なり合い、同質集団がおのおのの国家を樹立するのは困難である。だからこそウクライナ人、ユダヤ人、ポーランド人が混住する東ガリツィアでウクライナ人による独立国家を求めた人々は、過激な民族主義に走った。彼らにとって迫害の第一の標的は、中世以来ポーランド貴族の手先として税や借金を取り立てたユダヤ人だった。ユダヤ人は恐怖に陥り、移住先を求めてシオニズム運動が盛んになった。

 第2次大戦後にユダヤ人がパ…

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