大阪地検特捜部に業務上横領の疑いで逮捕・起訴され、無罪となった不動産会社元社長が、捜査に関わった検事について特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判を開くよう求めた付審判請求で、大阪高裁(村越一浩裁判長)は8日、田渕大輔検事(52)=現東京高検=を審判に付す決定を出した。検察官が審判に付されるのは初めてで、今後、刑事裁判が開かれる。
高裁は一連の取り調べに陵虐行為の疑いがあるとし、「検察官に迎合する虚偽供述を誘発しかねず、明らかに違法」と批判。訴えを退けた大阪地裁の決定を取り消した。
「プレサンスコーポレーション」元社長の山岸忍さん(61)は学校法人から土地売却に絡み21億円が横領された事件の共犯とされ、一審で無罪が確定。元部下(59)を取り調べ、山岸さんの起訴の根拠となった供述をとった田渕検事を審判に付すよう求めていた。
「検察なめんな」「大罪人」
昨年3月の地裁決定は、2019年12月8日の取り調べを陵虐行為と認定したが、継続的でないとして付審判の判断はしなかった。これに対し高裁決定は、翌9日も含めた取り調べで、山岸さんの関与を否定する元部下に対して「検察なめんな」「プレサンスの評判をおとしめた大罪人」などと一方的に怒鳴り、机をたたいて責め立てたと指摘。一連の取り調べを「虚偽供述が誘発されかねない危険性の高いもの」と結論づけた。検察庁内部で深刻に受け止められていないとも批判した。
その上で、今回の取り調べが大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を受けて導入された録音・録画下で行われた点を問題視し、「供述調書に過度に依存した捜査・公判を続けることは、時代の流れと乖離(かいり)している」と指摘。検事個人の資質や能力が原因と捉えるべきではなく、検察の捜査・取り調べのあり方を「組織として真剣に検討するべきだ」と求めた。
付審判請求は、公務員の職権乱用を同じ公務員の検察官が不起訴とした場合に、告訴・告発人が公判を開くよう裁判所に直接求める制度。対象者は決定に不服申し立てできず、裁判所に選ばれた弁護士が検察官役となる。
大阪地検の田中知子次席検事は「今後とも適正な取り調べの実施に努めたい」とのコメントを出した。(戸田和敬)