「世界で最も貧しい大統領」と呼ばれた南米ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領が13日、死去した。89歳だった。収入のほとんどを寄付して質素な生活を続けたムヒカ氏は「行きすぎた資本主義」に警鐘を鳴らし続け、日本でも知られた存在だった。
ムヒカ氏は1935年、首都モンテビデオ生まれ。青年時代から政治活動に携わり、60年代には軍事独裁政権に対抗する都市型極左ゲリラの創設メンバーの一人として活動した。資金を稼ぐため強盗や誘拐に手を染め、銃撃戦で重傷を負ったこともある。4回の投獄で計14年近く収監された。
85年の民政移管後に政治家となり、閣僚を経て2010~15年に大統領を務めた。拡大する格差の解消を目指したムヒカ氏は「ペペ」の愛称で親しまれ、退任を前にした支持率は65%に達するなど高い人気を維持した。大麻や中絶、同性婚の合法化などの政策でも注目された。
日本でもよく知られるのは、質素な生活だ。大統領在任中は公邸には住まず、収入の9割を貧困層に寄付。生活費は毎月1千ドル(現在のレートで15万円)ほどだった。「世界で最も貧しい大統領」と呼ばれた。16年の朝日新聞とのインタビューでは「『貧しい人』とは、限りない欲を持ち、いくらあっても満足しない人のことだ。でも私は少しのモノで満足して生きている。質素なだけで、貧しくはない」と語っていた。
行きすぎた資本主義や消費社会に警鐘を鳴らした12年の国連会議での演説は、絵本「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」(汐文社)として刊行された。16年に来日した際は東京外国語大学で「日本人は本当に幸せですか?」と題して講演し、「一番大きな貧困は孤独だ」「自分の資本を増やすためだけにお金を使っている人がいる。ばかげた悲惨なことだ」などと語っていた。
20年に上院議員を辞任して政界を引退。近年はがんを患って闘病中だった。2025年1月上旬には、がんが肝臓に転移していることを公表したが、新たな治療は行わないと宣言。ムヒカ氏は地元メディアに対し、こんな言葉を残していた。
「私のサイクルは終わり、死に向かっている。戦士には休む権利がある」