イスラエルによるパレスチナ占領を描く映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」が3月、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。授賞式の日、4人の共同監督の一人のパレスチナ人ジャーナリスト、バーセル・アドラー氏の弟のサーレム氏がフェイスブックで「これでマサーフェル・ヤッタで何が起こっているか知らないとは言わせない」とメッセージを発信した。
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公開中の「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」を巡り、同作の主な舞台であるマサーフェル・ヤッタ地域を取材した経験を持つ中東ジャーナリストの川上泰徳さんが寄稿した。
映画は1980年にヨルダン川西岸の最南端にあるマサーフェル・ヤッタ地域がイスラエル軍の軍事地域(演習場)に指定されて以来、延々と住宅破壊や学校破壊が続き、抗議する住民の逮捕が続いているという占領の実態を豊富な映像で示す。
2022年、イスラエルの最高裁は軍が軍事地域内の12村を排除することを認める決定を出し、住宅破壊は激化した。国連は「占領地内の住民の追放や移送は国際法違反」と反対する。
パレスチナを舞台にしたドキュメンタリー映画は多いが、大抵はインティファーダ(民衆蜂起)やハマスのミサイル発射に対してイスラエル軍が繰り返す大規模なガザ攻撃や西岸侵攻など、紛争激化の下で犠牲になるパレスチナ民衆を描いている。
それに対して、武装闘争がないマサーフェル・ヤッタを舞台に「ノー・アザー・ランド」が描くのは、占領の日常である。
私は昨春、この映画がベルリン国際映画祭など世界各地の映画祭で注目されているというニュースを見て、昨年7月に現地を訪れるまで、この地を知らなかった。朝日新聞の中東特派員としてエルサレム駐在もし、フリーランスも含めて30年以上、中東と関わっているにもかかわらず、である。
自戒を込めて言うなら、占領…