冷凍牛乳は、ざらざらしておいしくない。そんな業界の常識を超え、北海道十勝地方で、あえて冷凍牛乳の販売を始める牧場が出てきた。自分たちが丹精込めたオーガニック牛乳を、海外でも飲んで欲しい。支えるのが「凍眠」という急速冷凍機だ。
2024年11月、シンガポールのチャンギ国際空港で「十勝フェア」と銘打ったイベントが開かれた。冷凍ケースに並んだ「オーガニック牛乳」を飲んだ人から、「甘くておいしい。これ砂糖入っているの?」と驚きの声が挙がる。
十勝の企業の販路拡大を担う「とかち地域活性化支援機構(とかち機構)」が企画した。日本円で1本(180ミリリットル)約700円~約1千円と安くない価格帯だったが、用意した約100本は完売。販路開拓担当者は「冷凍牛乳を初めて持って行ったが、反応が非常によかった。販路としての可能性の高さを感じた」と話す。
出品した牧場の一つ、清水町の宮地牧場は、牛を一年中、昼夜放牧する「完全自然放牧酪農」を実施する。牧草は農薬や化学肥料を使わず栽培。20年から牧草だけで育てる「グラスフェッド」酪農を実践し、昨年5月から自社生産で「オーガニックグラスフェッドミルク」を売り出した。
インターネットのサイトなどを通じて販売しているが、冷蔵の賞味期限は7日で、遠方に送ると、現地で販売できるのは2、3日程度しかない。大きな販売先もなく、生乳の約9割は指定団体と呼ばれるホクレンに販売委託する現状だ。他の牧場の生乳と混ぜられるため、せっかくのこわだりの取り組みが埋没していた。
そこで着目したのが冷凍だった。賞味期限が3カ月に延び、遠方に送ったり、在庫としてストックしたりすることができるようになった。経営者の宮地晋也さん(63)は「将来的には、オーガニック牛乳だけで経営できるよう販売量を増やしていきたい」という。
これまで冷凍牛乳は解凍するとざらざらしておいしくないと言われ続けてきた。
日本乳業協会はホームページ上で、「冷凍はお勧めしません。冷蔵保存してください」と呼びかける。大手メーカーでも、冷凍牛乳に取り組んでいる会社はないという。
冷凍牛乳 なぜおいしくないの?
冷凍した牛乳を解凍すると…