第2次世界大戦後まもない長崎が舞台の映画「遠い山なみの光」が15日、カンヌ国際映画祭で披露された。英国のノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロさんによる同名小説が原作。イシグロさんが朝日新聞のインタビューに応じ、映画について「戦後80年を迎える今こそ重要な作品だ」と語った。
映画は、大戦直後の長崎で暮らし、後に英国に移住した悦子の回想録。今年のカンヌ映画祭で、革新的な映画を集めた「ある視点」部門に選ばれた。
15日の公式上映では、エンドロールが始まってすぐに大歓声に包まれ、観客から万雷の拍手が送られた。石川慶監督や、広瀬すずさんや吉田羊さんら出演陣、そしてエグゼクティブプロデューサーでもあるイシグロさんが、立ち上がって歓声に応えた。
原作は1982年に刊行され、英王立文学協会賞を受賞した長編デビュー作。イシグロさんは長崎で生まれ、幼少期に英国に移った。生まれた街の物語を書いた理由について、「自分の中にある日本の記憶について整理したかった。当時の英国では日本はまだ敵国のイメージで、凍結した日本に対するステレオタイプをどうにかしたかったという思いもあった」と振り返る。
小説では、戦争や原爆によって家族を失ったり、トラウマを持ったりする人たちが、傷を抱えながら未来に希望を持とうとする。戦争の悲惨さではなく、復興に焦点を当てている。
「20代半ばだった執筆当時の私に、戦争の悲惨さを書く資格はないように思いました。一人の小さな人間が制御しきれないような大きな出来事が一人ひとりに与える影響や、傷を抱えても自分の世界をより良くしようという勇気によって人々が立ち直るプロセスについて書いた。そこに普遍性があると思います」
映画を見て驚いた共通点
映画も小説と同様、戦争の悲…