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【ニュートンから】天文を愛した文学者たち(4)

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天文を愛した文学者たち

四人目の文学者は,池澤夏樹さんだ。池澤さんは文学者の両親をもち,小説から随筆,翻訳と幅広いジャンルの作品を今日まで発表しつづけている。池澤さんは大学時代に物理学を専攻していた経歴をもち,天文学や宇宙をテーマやモチーフにした作品や科学に関するエッセイもしるしている。

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1945年生まれ。科学を内容に盛りこんだ小説やエッセイを発表しつづけている。2023年には天文学者であり,軍人やキリスト教徒でもあった大叔父秋吉利雄を主人公にした小説『また会う日まで』を刊行した。この小説では,秋吉が参加した太平洋のローソップ島での日食観測やアインシュタインの来日を前にした勉強会などがえがかれている。戦前の日本の科学や天文学を知るうえで興味深い。

ミステリアスな人物が「チェレンコフ光」を語る

 1987年,第98回芥川龍之介賞を受賞した「スティル・ライフ」にも天文学の話題が登場する。この小説の冒頭には,主人公と,佐々井と名乗るミステリアスな人物がバーで語るシーンがある。水の入ったグラスをじっとみつめる佐々井は,主人公に「ひょっとしてチェレンコフ光が見えないかと思って」と語る。

 佐々井は主人公に,「チェレンコフ光。宇宙から降ってくる微粒子がこの水の原子核とうまく衝突すると,光が出る。それが見えないかと思って」と説明する。チェレンコフ光とは,電荷をもった粒子が媒質の中を運動する際に,放出される青い光のことだ。光は最も速度が速い物質だ。だが,水などの液体や気体の中を通過するとき,光の速度が遅くなることがある。このとき,粒子が物質中での光速度よりも速く物質の中を移動すると,チェレンコフ光が出ることがある。

カミオカンデの発見に衝撃を受けた

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イラストは,超新星爆発によってニュートリノが地球に飛来するようすだ。カミオカンデは,SN1987Aという超新星から飛来したニュートリノの観測に成功した。池澤さんは,カミオカンデにつとめる技師が主人公の小説である『星に降る雪』も発表している。

 佐々井の発言の背景にあるの…

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