南アルプスと中央アルプスに抱かれた長野県の飯島町。そこに「原田(はらた)屋」というリンゴ農園がある。
「ふじ」を中心に200本ほどのりんごの木を育てて60年余り。園主の宮脇寛行さん(73)と妻の明子さん(72)は、約20年前から化学肥料を使わず、農薬も最低限しか使わない。
6月中旬のこの時期、2人は直径4センチほどになった実を間引く作業に忙しい。選別すると、残した実に養分が集まり、秋においしいりんごができる。
「いや~、愉快だった」。宮脇さんは、昨秋のことを思い出すたびに、笑ってしまう。
実のところ、昨秋の収穫は、さんざんだった。地域のりんご農園でカメムシがのさばった。原田屋のりんごも、半分以上がやられた。カメムシに食われると黄色いデコボコができて、農協に出荷できない。
「全部、『お墓』行きだな」
「お墓」とは、農園の横に掘った穴のこと。出荷できないりんごを捨て、土の中に埋めるのだ。
りんご一つ一つが、宮脇さんには手塩にかけた子どものようなもの。
悔しい――。
「親方、私も悔しい」
そう宮脇さんに声をかけた女性がいた。
大阪から通い続けるボランティア
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