前方を航行する巨大な中国軍艦が急旋回し、進路をふさぐ。衝突を回避しようと警告する無線の音声が、現場の緊迫感を伝える。さらにもう1隻の軍艦が、至近距離で追尾してくる――。
- 【動画あり】迫る中国船、生死を分けた数メートル 圧倒的な海上戦力差、陸に活路
5月5日、南シナ海でフィリピン軍艦から撮影された映像だ。フィリピン軍は、自国の軍艦が排他的経済水域(EEZ)内にあるスカボロー礁近海を巡回中、中国海軍のフリゲート艦2隻が「衝突のリスクを高める攻撃的で危険な航行」をしかけてきたとした。
軍同士が直接対立するのは異例だ。戦闘行為ととられかねない危険な行動が、南シナ海の緊張の激化を物語った。
中国は、軍や海警局の船舶で武力行使寸前の威圧を繰り返す「グレーゾーン戦術」で、海洋進出を加速させている。
その背景にあるのは、圧倒的な海上戦力だ。この2隻は排水量4千トン級で対艦・対空ミサイルを備えた「054A型」。中国メディアによると、2008年1月に一番艦が就役した後、2023年9月時点で計約30隻の同型艦が次々と就役している。
一方のフィリピン海軍で外洋任務を担える主力ミサイル艦は、今年5月時点で韓国製のフリゲート2隻とコルベット1隻の計3隻にとどまる。
中国の圧力は、公船に対してだけではない。漁に出る民間の漁船に対しても幅寄せや追尾などの危険行為を続け、伝統的な漁場は脅かされ、漁業者の生活は苦境に陥っている。
フィリピン沿岸警備隊のジェイ・タリエラ報道官は23日、取材に対し、「これらは決して孤立した事案ではない。緊張をエスカレートさせる中国の行為は、南シナ海を含む広い海域で進行中だ」と危機感を示した。「次世代のため、闘わなければならない」
同盟国の米国もフィリピンと足並みをそろえるが、中国との海上戦力の差は開いている。米軍事メディア「ザ・ウォー・ゾーン」が23年に報じた米海軍情報局の資料によると、中国の造船能力は米国の232倍にまで高まっている。「戦闘部隊」の規模は、35年に中国475隻、米国300隻超となり、約1・5倍まで開くと試算される。
膨張する艦隊を武器に、中国の脅威はアジア太平洋の広範囲へと浸透しつつある。