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 クモの糸は、驚くほどの強さとしなやかさをあわせ持つ、自然界の万能素材として古くから知られてきた。これを人工的に作って暮らしに役立てられないかと多くの研究者が挑んできた。石油由来の合成繊維に代わる環境負荷の低い素材として、注目を集めている。

写真・図版
日本に多く生息するジョロウグモ=沼田圭司・京都大教授提供

 芥川龍之介の小説「蜘蛛(くも)の糸」には、地獄に落ちた罪人カンダタが、釈迦(しゃか)が垂らしたクモの糸をつかんでよじ登る場面があり、その強靱(きょうじん)さが描かれている。実際のクモの糸というと、手や服にまとわりついてなかなか離れず、切ろうとしても伸びていくため、ちょっとやっかいに感じることもある。

実用化の夢は300年前から

 クモはいくつもの種類の糸を使い分ける。その中でも、枝からぶら下がるときや移動時に使う「牽引糸(けんいんし)」は、いわば命綱のような役割を担う。この牽引糸を人間社会に使えないかと考えられてきた。

 引っ張ってから切れるまでにどれだけの力に耐えられるかを表す強度は、1ギガパスカルを超えるとされる。これは、絹の2倍以上、鉄に匹敵する強度だ。破断するまでにどれだけのエネルギーを吸収できるかを示す「靱性」も非常に高く、ナイロンの約2倍ある。軽くて、強くて、伸縮性があり、壊れにくい、理想的な繊維といえる。

 こうしたクモの糸を実用化し…

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