ステージに現れた指揮者が右手をすっと上げた瞬間、アーチ形の高い天井に甲高い叫び声が響いた。
「ギャー‼」
何かに驚いた子どもが思わず奇声を上げてしまったのだ。演奏が始まる直前の、だれもが呼吸を止めるような緊張の瞬間のハプニング。どうしたらいいのか、だれも分からない。
とその時、指揮者の右手が静かに動いた。背中ごしに聴衆にサインを送っている。親指と人さし指で丸を作って、「OK」のしるしだった。
ホールはホッとした雰囲気に包まれた。ほどなく始まった弦楽器の繊細な演奏に、心なしか優しい響きが加わった。
楽団が貫く「未就学児可」
「音文(おんぶん)」の愛称で親しまれるクラシック音楽の専用ホール、長野県松本市の音楽文化ホールで9月にあった市民オーケストラの演奏会での出来事だ。
その演奏会を開いたのは、市…