麦芽を混ぜてクラフトビールづくりを体験する研修生。見守るのは石見麦酒の山口厳雄さん(右端)=2024年6月19日午前11時10分、島根県江津市波子町のJR波子駅、興野優平撮影

■あしたをつくる 8がけ社会・中国地方編

 「過疎の先進地」ともいわれる中国地方から、持続可能な未来へとつながる萌芽に目を向けます。自治体の試み、それを主導する人々や企業のつながり、自治体の枠を超えて広がる連携など現場の試行錯誤を報告します(年齢などは紙面掲載当時のものです)。

 ブルワリー(ビール醸造所)を立ち上げようと志す人々が訪れる日本海に面したまちがある。11年前、民間研究機関から消滅可能性があると指摘された島根県江津(ごうつ)市。多くの人の目当ては、ここで2015年に創業した石見麦酒(ばくしゅ)での研修だ。

 24年6月下旬、JR波子駅の構内にある醸造所を訪ねると、兵庫県から参加した山田将人さん(42)が温度計に目をやり、ビールのもとになる麦汁をかき混ぜていた。研修では、クラフトビールの造り方、機械の操作方法から経営まで、起業に必要なノウハウを学ぶことができる。山田さんは、妹が営む長野県のペンションでオリジナルビールを提供したいと考えている。

 「発酵用のタンクも周りにある物でつくってしまうので、とんでもなく費用を安く抑えられる。そこがすごいです」

 石見麦酒を起業し軌道にのせたのは、広島県出身の山口厳雄さん(47)と妻の梓さん(46)。革新的だったのが、今では「石見式」と呼ばれる、発酵用のステンレスタンクの代わりにポリ袋と家庭用冷凍庫を使った醸造法だ。初期投資に数千万円かかるという醸造所を数百万円で立ち上げた。

 ポリ袋を使い捨てにすることでタンク洗浄の手間を省き、多品種少量の生産を可能にした。ビールには地場のユズやシークワーサー、夏みかんなどを活用。オーダーメイドにも柔軟に対応する。

 山口さん夫妻が起業を果たしたきっかけは、市主催のビジネスプランコンテスト「Go―Con(ゴーコン)」だ。

クラフトビールの缶詰め作業を体験する研修生=2024年6月19日午前10時10分、島根県江津市波子町のJR波子駅、興野優平撮影

「石見式」ブルワリー、全国に約70

 コンテストには、江津商工会…

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