子どもの授業参観に遅れて自己嫌悪……。そんな経験、ありますか?=イラスト・中島美鈴

 仕事でケアレスミスをした、約束の日時を間違えていた、忘れ物をした……。そんな日々の失敗のたびに自己嫌悪に陥っている人はいませんか? そしてあんなに落ち込んだのに、また同じ失敗を繰り返してしまう人はいませんか?

  • コラム「上手に悩むとラクになる」

 注意欠如・多動症(ADHD)の主婦リョウさん(架空の人物)も、まさに昔からそれを繰り返してきた人です。

子どもの授業参観に遅刻

 先日も娘の小学校の授業参観に遅れてしまい、娘がせっかく手を挙げて発表した場面を見逃してしまいました。あれだけ「見に行くね」と約束していたのに。

 リョウさんは、授業開始1時間以上前の、昼の12時半には準備を終えていたのです。

 早めに用意ができたから、ソファに腰掛けてスマホをいじりだしました。

 スマホを触るといつも時間感覚を失ってしまうので、ちゃんとアラームもかけておいたのです。

 しかし、そのアラームを午後1時にかけるべきところを、午前1時にしてしまっていたのです。ですから「あら? まだ時間じゃないのかな」と思いつつも、スマホゲームに興じてしまいました。

 「さすがに時間、経ちすぎでしょう」と思ってふと時計に目をやると、すでに授業開始10分前。リョウさんの家から小学校は近いので、走ればなんとか間に合いそうです。

 余談ですが、このギリギリ間に合うかもしれない瀬戸際の時間に気づくとか、目が覚めることって多くありませんか? それで全速力でかけていく羽目になるADHDの方の話をよく聞きます。

 リョウさんは急いで玄関を出て走りました。しかし、2分ほど走った後に、学校内で履くスリッパを忘れてしまったことに気づきました。

 リョウ「なんでスリッパを用意してなかったんだ。余裕かましてゲームしてた自分が憎らしい」

 急いでスリッパを取りに戻って、息を切らしながら教室についたのが15分遅れというわけです。

 リョウ「もう嫌だ。やっぱり私はいつも遅刻する人生なんだ」

 自己嫌悪で悲しいし、娘への罪悪感でいっぱいでした。それに授業参観に遅れずに到着している他の保護者がまぶしくて、引け目を感じ、ひどく落ち込んでしまいました。

自己嫌悪が極端な人がまずやること

 みなさんには、似た経験がありますか?

 ちなみにリョウさんの自己嫌悪は、状況に比べてかなり強いものでした。これには、過去の経験が大きく影響していました。

 リョウさんは、中高生のときには、今よりもっとずぼらで、すっぽかしも多く、忘れ物だらけでした。このため、先生や親からよく叱られ、「だらしない」と厳しい口調で責められていました。逃げ場がない状況で叱られた原体験が、リョウさんの心の中に今でも残っているのです。

 なので、当時と似た状況(今回は授業参観への遅刻)になると、叱られてつらくて逃げ場のなかった感情が、自動的に湧き上がってくるのです。目の前にすごい剣幕の親も先生もいないのに、あたかも叱られて、だらしないとののしられているような気持ちになっているということです。

 でも今や、リョウさんは1児の母。当時よりは部屋をきれいにしているし、料理だってしているし、子どもを学校に送り出すこともできているのです。なんとか大人をやれているのです。

 こんな時、リョウさんがまずするべきは、自己認識の「アップデート」です。

 15分間、授業参観に遅れて娘さんの発表場面を聞けなかったこと自体は悲しいミスです。しかし、小さい頃に味わっていた逃げ場のない感情を抱くほど落ち込まなくてもいいはずです。意識の中で、目の前の状況と中高生の頃の状況を区別して、「確かに悲しい事態ではあるけど、あの頃と混同したら、つらすぎる。区別だ」と言い聞かせるといいでしょう。

次にすべき「役に立つ反省」

 その次にリョウさんにしてほしいことは、「役立つ反省」をすることです。

 具体的には、「12時半に戻れるのなら、何をすべきだったか」を考えます。たとえば、

 ▽ゲームを始めない

 ▽アラームの午後1時と午前1時のかけ間違いをしがちなことを気に留めておく

 などですね。また、もう少し事前に準備しておくべきだったことも考えます。

 ▽授業参観の予定を書き込んだスケジュール帳に「□スリッパ」と持ち物も記入しておく

 ▽前夜から持参する物を準備する

 こういう実用的な反省をすれば、失敗を確実に減らせます。

 精神的に自分を追い込むことも、たしかに自分の「感情」的な記憶を残すという意味ではミスの再発を防ぐかもしれません。しかし、リョウさんのようにそれでも失敗を繰り返す人には、精神論ではない上記のような反省の方が役立つのです。

 自分を責めるより役立つ反省をしましょう!

〈臨床心理士・中島美鈴〉

 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

    ◇

 このコラムでご紹介した遅刻の防ぎ方のような時間管理について、もっと学びたい方は「マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全」(中島美鈴・著、あらいぴろよ・絵、主婦の友社)もどうぞ。https://books.shufunotomo.co.jp/book/b10080837.html(臨床心理士・中島美鈴)

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