山極寿一さん

科学季評・山極寿一さん

 北海道・知床半島の羅臼岳で8月、登山者がヒグマに襲われて亡くなる痛ましい事故が起こった。下山途中の男性が子連れの母グマに出くわし、攻撃された。この母グマは地元の人々や観光客にも知られていて、あだ名が付いていたという報道もある。

 思い出したのは、私自身がゴリラに襲撃された体験だ。17年前にアフリカのガボン共和国にあるムカラバ・ドゥドゥ国立公園で、野生のゴリラの調査をしていた時のことだ。まだ人になれていないゴリラの警戒心を解き、近くで観察しようとして、毎日ゴリラを追跡していた。ゴリラに嫌がられても、威嚇されても、懲りることなく私はジャンティ・グループと名付けたゴリラたちに接近を図っていた。

 その日はどうもゴリラの機嫌が悪そうだと感じてはいたのだが、ここで撤退してはゴリラの態度を変えられないと思い接近を繰り返した。突然、「グオッ」という叫びをあげ2頭のメスゴリラが突進してきた。思わず身構えたが、メスたちは私を前後からはさみ、同時に飛びかかってきた。後ろから私の頭にかぶりつき、前から私の足にかみついた。なすすべもなく後ろに倒れると、素早く引き揚げていった。後ろで隠れて見ていた現地のアシスタントによると、大きなオスがすっ飛んできてメスを突き飛ばし、私から引き離したらしい。オスに助けられたのだ。

 私はアシスタントに支えられ…

共有
Exit mobile version